ラヤとラムズデールの「決定的な差」
身長183cmとGKとしてはサイズに不安があるラヤだが、彼が高い足元の技術を持っているのは周知の事実。このスペイン代表GKはゴール前でパスを受けた時、足裏でボールをコントロールしながらパスの出し所を探す動きを見せる。これはラムズデールには無い挙動だ。ラヤはラムズデールと比べて2つ目の選択肢を選ぶことが多いことに加えて、状況によっては1つ目の選択肢=ロングキックを選ぶこともできる。
11月に行われた第13節ブレントフォード戦でも、ラヤに代わって出場したラムズデールは自陣ゴール前で大きなミスを犯した。ガブリエウ・マガリャインスからボールを受けた同選手は、パスの出しどころに迷っている間によろめき転倒。相手FWにボールを奪われ、あわや失点というシーンを作ってしまった。この時はデクラン・ライスのファインプレーで窮地を脱している。この苦い経験があってか、この試合のラムズデールは、相手FWにプレッシャーをかけられた時に「いなす」プレーやラヤのようなパスコースを「探す」プレーは見られず、真っ先にロングキックを選ぶことが多かった。
失点シーンでもピズドロフスキー氏の指摘通り、彼の中でロングキック一択のように見えた。ウィリアム・サリバにボールを預ける選択をしなかったのは、第2の選択肢を選ぶことへの自信の無さの表れかもしれない。安易にロングキックに逃げたことで相手FWに狙われ、失点のきっかけを作ってしまった。
それでも後半見事に立て直し、2度のビックセーブでゴールを死守したラムズデールは大きな称賛に値する。試合後にビーズ(ブレントフォードの愛称)のサポーターたちに見せた“煽るような仕草”は、神がかったセーブを見せた後に不敵な笑みを浮かべながらアウェイスタンドを煽る、かつてのラムズデールの姿を思い出させた。
だが冷静になって考えれば、この試合でアルテタ監督はよりラヤへの信頼を深めたはずだ。ラムズデールが得意にしているプレーをラヤは苦手としていないが、ラヤが得意としているプレーをラムズデールは苦手としている。
アルテタ監督にとって、ゴール前から“繋ぐ”プレーに安定感があり、シュートストップにも定評があるスペイン代表GKをファーストチョイスにすることにもはや揺らぎは無い。そのため今季最後のブレントフォード戦を終えた今、この試合がラムズデールにとってアーセナルでのラストマッチになってしまう可能性は高いだろう。シーズン終盤にGKの序列が変わるとは考えにくく、ラムズデールが今夏にアーセナルを退団する決断をしても不思議ではない。
ラムズデールとの良き思い出は、このまま書き換えられることなくセピア色に染まってしまうのだろうか。
(文:竹内快)