「海賊になれ」に込められた思い「過程にこそ高校サッカーの魅力がある」
「海がない滋賀県のチームが、琵琶湖から大海原に出て行って大暴れしたいという思いを込めました。全国という大海原をどんどん航海していって頂点を勝ち取る、といった大きなイメージですね」
海賊は仲間同士の絆が強く、常に活気に満ちあふれ、どんな相手にも勇敢に立ち向かっていく。7つの海、という言葉に合わせたかのように、分析をはじめとする7つの班に部員たちが所属しているのも、それぞれの活動を介して「絆」の強さを育み、さらに「活気」をあふれさせる相乗効果ももたらす。
新チームが立ち上げられた直後の1月中旬には、SPLYZA社の担当者が近江高を訪れて講習会を開催し、映像分析ツールを使いこなしていく上で必要なノウハウが1年生部員に伝授された。次なる航海はすでにスタートしている。前田監督は「青森山田にはいろいろと教えてもらえた」と目を細める。
「青森山田のサッカーもあるし、僕たちみたいな独自路線もある。いろいろなやり方でトライしてもいいと、あらためて伝えられた思いがありますよね。いろいろなルートを、いろいろな考え方で進んでいく過程にこそ、高校サッカーの魅力があるんじゃないかな、と。新チームに関しても、マイボールは絶対に大事にします。その上で新年度はどのような選手がいて、どのような絵が描けるのか。僕たちスタッフ陣にとっても準優勝で頭でっかちになって、もう一度同じチームを作ると言った時点で色褪せてしまう。その意味でも、追われる立場になった、という感覚はまったくないですね」
新チームの船出を前に、実は思わぬ事態に直面していた。チームスローガンを定めたときから、ユニフォームの左胸に縫いつけてきた『Be Pirates』のロゴに高体連からNGが出されたからだ。
「ユニフォーム規定か何かで、思想や主義を入れてはいけないと選手権後に言われたんですよ」
破竹の快進撃とともに、メディアへの露出が一気に増えた代償と言えばいいだろうか。もちろんウインドブレーカーの左胸に輝く『Be Pirates』はお咎めなし。何よりも近江に関わる全員が心のなかで共有している『Be Pirates』は、唯一無二の羅針盤として大海原を進む航海を支えていく。
(取材・文:藤江直人)
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