「自由に考えられるような枠を残す」近江高校サッカー部員の財産
「うーん、カチッと情報通りにはまる、というのはなかなか難しいというか、ないんですよ」
38歳の指揮官は苦笑しながら、「ない」という言葉に込めた真意を明かしてくれた。
「基本的に分析班からこちらに情報が上がってきて、僕たちスタッフ陣がそれをもとに、というわけではないんですね。分析班は分析班で必要だと考えていろいろとクリエイトするし、スタッフ陣はスタッフ陣でクリエイトするなかで、お互いをすり合わせる前提として、ともに情報を持っている、という形になりますよね。それを僕たちから『こういう映像を切り取ってくれ』とか、あるいは『こういう考えでやってくれ』と言うと、どうしても作業になってしまう。できる限り彼らが独自に何かを生み出せるような、彼らが自由に考えられるような枠を残しながら、すべてを進めているので」
次の対戦相手や自分たちの試合の映像をSPLYZA Teamsのサイトに上げて、サッカー部全体で共有するのが分析班の仕事ではない。映像分析は「あくまでも補完的なもの」と前田監督は続ける。
「僕は選手たちに『勝つ可能性を1%でも上げていこう』とよく言うんですけど、分析はその過程のひとつでしかないんですよ。何よりも大切なのは人間的な成長であり、イコール、サッカーに対して没頭した経験だと思うんですね。高校での3年間で貫き通したものがある。こういう経験が自分やチームを高めて、卒業後の人生を歩んでいく彼らの財産となってくれれば、と思っています」
サッカーの指導者の一人として、そして教育者の一人として考え出したのが、保健体育科、英語科、公民科の教諭として近江へ赴任し、サッカー部監督に就任した2015年4月からほどなくして導入した、キャプテンと副キャプテンを除くすべての部員を班に所属させて活動させるやり方だった。
そのなかで今年度の分析班リーダーは、副キャプテンに就任した西村から小山を経てMF山門立侑が務めてきた。指揮官自身の判断で、昨年8月ごろに山門に代えたと前田監督は記憶している。