「目も合っていた」以心伝心でつながったパス
左サイドの奥深くで中村がボールを持った場面で、佐野がスルスルとバイタルエリアへ近づいていく。中村から佐野へ、さらに佐野から中村へ。短いパスを交換した直後に、佐野はペナルティーエリアのなかへ侵入していった。しかも右手で前方を指すゼスチャーで、中村へパスを要求している。
「中村選手と目も合っていたので、その瞬間に『パスが来る』と思って走っていきました。そこへ上手く出してくれましたし、自分もそこから上手く折り返せたのかなと思います」
以心伝心で送られた縦方向へのパスに反応した佐野が、相手ゴールとの距離を一気に詰めていく。必然的にタイの守備陣も下がり、視線は佐野とニアサイドに詰めてきた細谷真大に向けられる。
しかし、佐野は体を時計回りに強引に捻りながら、左足でマイナス方向へのパスを送ってタイの選手たちの虚を突いた。パスの先にいたのはノーマークになっていた南野拓実。左足から放たれたシュートは相手キーパーに防がれたが、詰めていた中村がこぼれ球を押し込んで2点目をあげた。
「中盤の底の位置で攻守のバランスを見ながら、上がっていけるときには上がっていかなきゃいけないと思っていた。その意味でゴールにつながる攻め上がりができたのはよかった」
こう語った自身にはアシストはつかない。それでも機を見るに敏の攻撃参加から追加点を演出した佐野は、パスを送る直前のプレー、中村のパスに反応して深く攻め込んだ動きをこう振り返る。
「あそこのゾーンは、チームとしても個人としても意識して狙っていた。あのゾーンを突いてマイナス方向にパスに送れば、味方が絶対に空くとも思っていた。前半も何回か上がっていたんですけど、タイミングがあまりよくなかった。ただ、後半のあの場面ではすごくいいタイミングで上がれたと思うし、あの回数をどんどん増やしていかなきゃいけない。これは次の課題だと思っています」
2分後の74分に生まれた、相手のオウンゴールによる3点目にも佐野が関わっていた。
自陣の中央でパスを受けて前を向き、相手選手とのデュエルを強引に制した佐野が選んだのはドリブル突破。20メートルほどボールを前へ運び、カウンターを発動させてから左前方にいた中村へパス。さらにボールを託された南野のクロスを、相手選手がかろうじてコーナーキックに逃れた。
堂安が放った左コーナーキックを、ニアサイドで細谷が後方へすらしたボールが相手選手に当たってオウンゴールになった4分後の78分。佐野が初めて経験する瞬間が訪れた。