川崎フロンターレが本来の戦い方を捨てた理由
柏の前線からのプレスにパスワークを分断され続けた。パリ五輪世代のFW細谷真大を中心に、一撃必殺のカウンターを擁する柏に対して、いつしかパスをつなぐプレーを躊躇するようにもなった。
ベンチ前のテクニカルエリアから修正を指示したくても、大会史上最多の6万2837人で埋まったスタンドからとどろく大歓声でどうしても遮断されてしまう。鬼木監督は途中から本来の戦い方を捨てた。もちろんネガティブな選択ではない。失点を阻止するためのポジティブな判断だった。
「我慢せざるをえない状況だった。相手の勢いもあって、自分たちがプレッシャーをかければ背後に落とされて、どんどん間延びさせられてしまう。自分たちがボールを握る時間が極端に減ってしまった反面、柏の一番脅威となるカウンターを……何て言うんですかね、自分たちがボールを持てない分だけ、そこを冷静に見ながらというか、折り合いをつけながら勝負をかけていこうと」
自分たちが中途半端な形でボールを失わなければ、カウンターを発動されるリスクも軽減される。らしくない戦いなのはわかっていても、相手が得点する確率を下げる試合展開を優先させた。
それでも69分、延長戦突入後の100分と細谷に裏へ抜け出された。しかし、大ピンチでともにソンリョンが立ちはだかる。前者は細谷のボールタッチがやや流れたところを前に出てボールをキャッチし、後者では右足から放たれたシュートをビッグセーブ。失点を防いだ38歳の元韓国代表は胸を張った。