「リカバリー・パワー」が具現化された瞬間とは
言語化に長ける指揮官は、自ら「決して選手層が厚いわけでも、経験豊富な選手がいるわけでもない」と位置づけるヴェルディを、お互いがカバーしあいながら、ミスを恐れずにトライし続ける集団にまず変えたかった。そのためにキャッチーな造語のリカバリー・パワーを選手たちに植えつけた。
そして、キャプテンの森田が献上したPKによる失点を全員で取り返した清水戦は、リカバリー・パワーが最高の形で具現化された一戦でもあった。年上の自分に対して怒鳴った染野も、ある意味でリカバリー・パワーを発動していたと言っていい。城福体制下でのヴェルディを、森田はこう振り返る。
「PKを与えてしまい、リカバリーしてもらった側の僕が言うのもちょっとあれですけど、本当に素晴らしいリカバリー・パワーが出たと思います。城福監督の目指すサッカーにおいて本当にぴったりな言葉だなと思いましたし、この1年ちょっとで落とし込んだチームの戦術もそうですし、時に優しくて時に厳しいじゃないですけど、選手たちの気持ちを乗せるのも本当にうまいと思っています」
栄光と忸怩たる思いが色濃く刻まれたクラブの歴史に、ハイライン&ハイプレスを軸に、できるだけ相手陣内でボールを動かし続けるスタイルを標榜する城福監督の戦術が融合された新生ヴェルディは、正念場となる9月以降の戦いを7勝5分けと無敗で駆け抜けて戻るべき舞台への帰還を果たした。
清水戦から一夜明けた3日には解団式が行われ、最後は究極のハッピーエンドとなった、波乱万丈に富んだシーズンを終えた。ただ、新たな戦いはもう始まっている。森田はこんな言葉を残している。
「今年の天皇杯でもFC東京さんと当たる機会がありましたけど、平日のナイトゲームにもかかわらずすごい盛り上がりでした。そういうのも見ながら、歴史あるヴェルディというクラブがJ1に上がる、というのはすごく大きな意味を持つとあらためて思いました。だからこそ、1年でJ2へ落ちたら意味がない。そのあたりはクラブも、そして選手たちも大きな覚悟を持ってJ1の戦い臨みたい」
補強だけでなく期限付き移籍の選手が多い陣容をどうするか、といった編成面の問題は残る。それでも実際にピッチで戦っていく上で、ヴェルディが共有しているベクトルは来シーズンもぶれない。その中心に身長167cm体重63kgの小さな体に、あふれんばかりのヴェルディ愛を脈打たせる森田がいる。
(取材・文:藤江直人)
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