「主力がいなくなるのは当たり前」
金の卵たちを次々と輩出してきた伝統のアカデミーは健在ながら、主力として一本立ちするやいなや、他のクラブに引き抜かれるケースが続いてきた。運転資金が決して潤沢ではないヴェルディとしても、生え抜きの若手選手を放出して、対価として得られる移籍金を補強資金にあててきた経緯があった。
そして、4年目を終えた森田にもオファーが届いた。昨年6月に就任した城福浩監督は、清水戦後の公式会見で「このチームは毎年主力が流出します」と切り出し、さらにこんな言葉を紡いでいる。
「去年も私が就任してから夏に2人、冬に4人のレギュラーがいなくなりました。もちろん彼(森田)も大きな選択を迫られた冬でした。なぜなら、そのシーズンが終われば主力がいなくなるのは当たり前、という状況のなかで、それでも彼はヴェルディに残る決断をしてくれたからです」
ヴェルディが苦難の道を歩み始めた2009年にくしくもクラブに加わり、もがき苦しんだ歴代の選手たちの姿を見ながら育ってきた森田を、城福監督は今シーズンのキャプテンに指名した。苦しいときに、森田がクラブへ抱く愛が進むべき道を示してくれるという信頼感がそこにあった。
「彼のキャラクターからすれば、キャプテンに任命されるのは到底考えられなかった、想像できなかったと思うんですね。そのなかでこの1年間、一緒に格闘しながらもがいてきて、辛抱強く積み重ねてきて最後の最後に彼と昇格を勝ち取れた喜びは、言葉では説明できないものだと思っています」
城福監督が森田への思いを語れば、J1復帰を果たした年のキャプテンを担った森田もこう続いた。そこには試合終了直後から頬を伝わせた涙に込められた、もうひとつの意味も込められてきた。
「振り返ってみると、本当にいろいろな人に助けられてきた1年間でした。僕だけの力じゃないですけど、僕がキャプテンという立場になったその年で、J1昇格を勝ち取れたのはすごく嬉しい。本当に学ぶことだらけでしたし、選手としてではなく人間的に成長できたかなと思っています。このクラブにずっと在籍してきて、あと一歩の年もありましたし、先輩たちの悔しい姿も見てきたなかで、そういった15年分の思いといったものが(涙として)少しあふれ出したかなという感じですね」
城福監督は就任と同時に、チームコンセプトとして「リカバリー・パワー」を掲げている。2年目を迎えた今シーズン。耳慣れないキーワードの意味がよくわかると森田は指揮官に感謝する。
「たとえミスをしても周りの選手が取り返す。リカバリー・パワーという言葉の裏には、どんどんチャレンジしていけ、という意味もある。それが今日の試合でもすごく大きな力を持ったと思います」