前寛之の決断。負のサイクルに終止符
「2019シーズンが終わったときに、ステップアップしたいと思っていたなかでいくつかの選択肢がありました。J1のクラブへ移籍する選択肢もありましたけど、着々とステップを踏んでいくことの方が僕は大事だと考えたので、あのときの決断を正解にすることができてよかったと思っています」
4年前のオフをこう振り返った前は、福岡への完全移籍を決める際の判断材料として、1カ月ほど早く就任が発表されていた長谷部監督の存在があったのかと問われると、笑顔で即答している。
「もちろん(福岡へ)行くことを決める要素のひとつになりました」
迎えた2020シーズン。長谷部体制の福岡で前はキャプテンに指名され、コロナ禍で長期中断を強いられたJ2リーグを最終的に2位でフィニッシュ。2015シーズン以来となるJ1昇格を決めた。
そして2021シーズンからここまで、札幌時代にはなかなか絡めなかったJ1リーグ戦に103試合連続で出場。福岡をJ1へ定着させる原動力の一人になり、5年ごとに昇格してはわずか1年でJ2へ降格するパターンを、実に3度も繰り返してきた福岡の負の歴史を好転させた。
今シーズンは天皇杯でもクラブ史上最高位のベスト4に進出。ルヴァンカップでも昨シーズンのベスト4に並ぶと、準決勝では名古屋グランパスを2戦合計2-0で撃破。初めて臨んだ決勝の大舞台で流れを福岡に導く先制点を決めて、Jリーグ参入28年目での初タイトル獲得に大きく貢献した。
「僕自身、シゲさんとの関係は6年目ですけど、こういったタイトルというものはものすごく縁遠いものに感じられていた。そのなかで着々とステップを踏みながらここまで来られたところと、決勝の舞台でカップを掲げられたところは、自分のなかでは素晴らしいストーリーだと思っています。札幌でキャリアをスタートさせて、J1の舞台でプレーするのに時間がかかっただけでなく、J1の舞台で結果を残すのにも相当苦労してきたなかで、タイトルを取れたことは自分のキャリアのなかでも嬉しいですし、クラブの歴史にとってもタイトル数を『0』から『1』へ変えられたのは大きいと思います」