呆然と立ち尽くす浦和レッズ守備陣

「裏に抜けるプレーや相手と競り合うところでは勝てないと思っていました。トップには祐也くん（山岸）がいるので、祐也くんの近くでボールを受けて、展開していくプレーを意識していました」

　浦和の守護神、西川周作のゴールキックを、前が務めていたキャプテンを今シーズンから引き継いだセンターバックの奈良竜樹がはね返す。ボールが落下してくるセンターサークル内で、浦和のボランチ、岩尾憲と競り合いながら、1トップの山岸祐也がワンタッチで巧みに後方へ落とした。

　山岸をサポートしていたのは前。ボールを収めた次の瞬間、高めのポジションを取っていた浦和の左サイドバック、荻原拓也の後方のスペースへ鋭いパスを供給してカウンターを発動させる。ターゲットはすでにスプリントを開始していた紺野。このとき、前の脳裏にはあるビジョンが浮かんでいた。

「紺ちゃん（紺野）のカットインだけでなく、縦にいってからのクロスも頭のなかにあった。ゾーンで組まれたときの浦和の守備がかなり堅くなるのはわかっていので、こういうカウンター気味の流れから、グラウンダーのクロスのときに中へ入っていく方がゴールにつながるチャンスになる、と」

　左利きの紺野が選択したのは縦への仕掛け。カットインを警戒していた分だけ、荻原の対応も後手を踏む。そして、右足を思い切り振り抜いてグラウンダーの高速クロスを供給。浦和の最終ライン、そして西川がほぼ棒立ちになって見送ったボールにただ一人、反応したのが前だった。

　右サイドの紺野へパスを展開した直後からスプリントを開始。ペナルティーエリア付近でさらに加速して、右サイドバックの酒井宏樹の背後からゴール前に侵入。体勢を崩しながら右足をヒットさせ、ボールとともにゴール内へ転がり込む前を、酒井は呆然と見送るしかなかった。

　前とともにリーグ戦で全試合に先発している山岸が、電光石火の先制点の舞台裏を明かす。