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お騒がせGKの知られざる素顔。エミリアーノ・マルティネス、アルゼンチン代表GKの“愛”に溢れた生き方【コラム】

シリーズ:コラム text by 安洋一郎 photo by Getty Images

人生を変えた「愛する家族のための決断」


【写真:Getty Images】

 エミリアーノ・マルティネスはアルゼンチン最大のビーチリゾートがあるマル・デル・プラタという都市に生まれた。

 母親はアパートの清掃員、父親は魚を運ぶトラック運転手の職に就いていたが、非常に貧しい家庭環境で育った。家にはドアもトイレもなく、マルティネスが12歳から所属していたインディペンディエンテユースの試合を観に行くためのガソリン代も支払えないほど生活が困窮していた。

 お金はなかったが、両親から受けた“愛“は本物だった。幼い頃、自分と兄のアレハンドロが食べられるようにと、両親が食事を摂生していたこともあったそうだ。

 そんな家庭に育ったマルティネスに転機が訪れた。17歳の時にアーセナルのトライアウトに参加すると、アルゼンチンに戻ってから1週間後にオファーが届いた。

 契約金だけで車が買えるほどの魅力的な話だったが、最初マルティネスは愛する家族の元を離れるつもりはなかったそうだ。だが、“父親の涙”が彼の心を動かした。

 イギリス『The Guardian』のインタビューに応えたマルティネスは「兄と母が『行かないでくれ』と言って泣いているのを見た。でも、お父さんが夜遅く、お金が払えなくて泣いているのも見た。だから、その時は勇気を出して、彼らのために “イエス”と言ったんだ」と、アーセナル移籍を決断した理由を明かしている。

 家計を支えるために海外移籍を決断したことからも想像できるように、彼は自分の家族を大切にしている。2023年2月にザ・ベストFIFA男子ゴールキーパー賞を受賞した際のスピーチでは、目に涙を浮かべながら両親へ感謝の言葉を述べた。

 「よく『あなたのアイドルは誰ですか?』『子供の頃、誰を見ていましたか?』と聞かれる。その時、私はいつもこう答えます。『母親が9時間ビルを掃除する姿や父親が働く姿を見てきた。彼らこそ僕のアイドルだ』とね」

 そして、バロンドール授賞式でプレゼンターとして登場したのは父だった。晴れ舞台で2人は熱い抱擁を交わすと、最も愛する人からGKとして最高の名誉であるヤシン・トロフィーを受け取った。

 今も両親とはイングランドとアルゼンチンで離れて生活をしているが、決して孤独ではない。常にそばにいてくれる妻と2人の子どもが彼の精神的な支えとなっている。愛する家族の存在が、世界最高峰のGKとなったマルティネスの成長を後押ししたのだ。

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