「絶対に無理」明かされる急造GKの真相
「ガンちゃん(大岩)との話のなかで『僕かガンちゃんがやるのかな』となっていたけど、キーパーだったのは小学生時代だし、さすがに今日は違うでしょう、と。今日の相手にはサイズがないとダメだし、なのでガンちゃんには『絶対に無理です』と言いました。身長が足りないし、できないと」
湘南のベンチでは山口智監督が、最悪の事態に備えた対策をコーチ陣と話し合っていた。
「(石原)広教が小学校のときにキーパーをやっていた、というのはありましたけど……」
こう語った指揮官もまた、石原を指名する選択肢を最初から持ち合わせていなかった。脳裏に思い描いていたのは183cm大岩の一択。もっとも、大岩自身にキーパーの経験はない。もちろん練習もしていない。それでも、昨シーズンからキャプテンを務める34歳のベテランに山口監督は大役を託した。
「大岩をゴールキーパーにした理由としては、大岩でやられたらしょうがないのかな、と。なぜと聞かれるとちょっと困りますけど、まあ心中できると思ったので。時間も時間でしたし、本人も快諾してくれたというか、すでに(キーパーを)やる気になっていたので助かりました」
すぐにベンチ前へ呼び寄せた大岩へ、山口監督は「トミ(富居)が難しかったらやってもらうぞ」と思いを告げた。以心伝心というべきか。大岩も「どうこう考えるより、心の準備をしていました」とすでに覚悟を決めていた。頼れるキャプテンの背中をポンと叩いてゴールマウスへ送り出した。
ファン・サポーターが見守るなかで、大岩は「22番」のユニフォームを脱ぎ、馬渡のために用意されていた「21番」のピンク色のそれに急いで着替える。同時進行でマネージャーがキーパーグローブを両腕にはめるのを手伝う。心のなかで大岩は何度もこうつぶやいていた。「もうやるしかない」と。