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アルゼンチン生まれの神経科学を実用的に用い、無意識をトレーニングする先鋭のトレーニング理論をまとめた『フットボールヴィセラルトレーニング[実践編]』が、6月の[導入編]に続き、10月3日に刊行された。そこで、今回は[実践編]から一部を抜粋して、一流選手が無意識下で行う「スキャニング」の重要性を紹介する。(文:ヘルマン・カスターニョス、監修:進藤正幸、訳:結城康平)
往年の名FWジミー・グリーヴスは「肩越しにボールを見ていた」
伝統的な方法も知覚能力の向上に大いに貢献する。例えば、スキャンの教育だ。フランク・ランパードの父フランク・ランパード・シニアは、息子が子どもの頃から首を振ることの重要性を伝えていた。
『フットボールヴィセラルトレーニング
無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[実践編]』
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ノルウェー体育大学の教授ゲイル・ヨルデットは、1998年からこのテーマを研究している。彼は多くの年月をこの研究に捧げた結果、重要な結論を導いている。
「私がよく見つけることは、スキャンが得意だと思っている多くの選手が同じような経験を共有していることだ。彼らは子どもの頃にスキャンが重要だと言われたか、または自分で気づき、早くから習慣化してきた。スキャンによって、ほかの選手よりも有利になっている。(中略)私は、グレン・ホドルとのインタビューを覚えている。彼は若い頃、往年の名FWジミー・グリーヴスのプレーを観察しているとき、あることを発見した。彼は、ボールを直接見ていなかったのだ。ホドルによれば、彼は肩越しにボールを見ていた。それは、典型的な話だ」
読者の方々には、「教える」という言葉を使ったことに注目してほしい。もしサッカー選手がスキャンを遺伝子として持っていない場合、教えられなければならない。最終的には意識と無意識の旅になるだろう。
ヨルデットは、次のように述べている。
「能力と同様に、しばらくすると自動的になり、ただスキャンを行うだけだ。これは多くの選手の場合がそうだ。彼らの中には、スキャンをやっていてもスキャンについて考えていない選手もいる」
選手にとって、スキャンは差別化されたスキルとなる。
ヨルデットは、次のように認めている。
「ジュード・ベリンガムを見てほしい。フィル・フォーデンを見てほしい。彼らは、スキャンを得意としている。キリアン・ムバッペも、スキャン能力においてほかを圧倒している。アーリング・ハーランドも、スキャンを得意としている」
ヨルデットは、ここで重要な区別をしている。
「スキャンの頻度を倍増させることは比較的簡単だ。しかし、情報を吸収すること、見るだけでなく起こっていることを知覚し、最終的にはスキャンを行動の指針として利用することに慣れさせるには、時間を要する」
また、守備の局面におけるスキャンに関連する行動のバイアスも指摘している。
「私たちが認識している以上に、相手チームがボールを持っているときに、選手たちは常にスキャンのミスを犯している」
元アーセナルの監督アーセン・ヴェンゲルは、次のようにコメントしている。
「非常に優れた選手は、ボールを受ける前の10秒間で6〜8回スキャンを行っているが、通常の選手は3〜4回行っている」
<書籍概要>
フットボールヴィセラルトレーニング
無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[実践編]
ヘルマン・カスターニョス 著
進藤正幸 監修
結城康平 訳
定価:2,970円(本体2,700円+税)
タスク(課題、目的)に向けて「レイヤー(層)=変数」を重ね、実際の試合以上の複雑性を生み出す
上巻『フットボールヴィセラルトレーニング[導入編]』では、神経科学を実用的に用い、認知、意思決定、無意識下でのプレーを最適化するための理論を紹介した。
下巻『フットボールヴィセラルトレーニング[実践編]』では、タスク(課題、目的)に向けて「レイヤー(層)=変数」を重ね、プレーヤー、フィールドサイズ、ピッチ形状、ゾーニング、ボール、ゴール、ゲート、ツール、時間などを操作し、実際の試合以上の複雑性を生み出すヴィセラルトレーニングの構造を具体的に解説していく。
[導入編]はこちら
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【了】