「ここ最近、自分のなかでもそういう意識が少なかった」
「ゴールを決めたのがたまたま自分だったというだけで、誰のゴールでもよかった。どのような形だったのかははっきり覚えていないけど、シュートを打ちやすいボールがこぼれてきたので、とにかく思い切って打ってみよう、と。ここ最近、自分のなかでもそういう意識が少なかったので」
値千金の決勝ゴールを振り返れば、磐田のゴールキックに行き着く。キーパーの三浦龍輝から短いパスを受けたセンターバックの伊藤槙人が、前方へロングボールを蹴り出す。最終ラインからのビルドアップを断念させたのは、伊藤へ猛然とプレスをかけてパスコースを封じた乾だった。
しかし、トップ下の山田大記を狙ったロングボールはややアバウトになり、清水のボランチ白崎凌兵が余裕を持ってはね返した。ボールを受けたもう一人のボランチ、ホナウドがさらに前方へつなぐ。パスを受けて前を向いたサンタナの周囲には、磐田の選手が誰もいない状況が生まれていた。
サンタナは当初、左サイドから斜め右へ走り込んできたMFカルリーニョス・ジュニオへのスルーパルを選択した。しかし、磐田のDFリカルド・グラッサが必死にブロック。そのこぼれ球が乾の前へ転がってきた。次の瞬間、ボールへ素早くアプローチした乾が迷わずに右足を振り抜いた。
シュートはサンタナのスルーパスをブロックした勢いで飛び込んできたグラッサの足をかすめて、コースを変えながらゴール左へ吸い込まれた。まさに気持ちで決めた乾は、こんな言葉も残している。
「終盤はもう耐えるしかない、という感じだった。それはチームのみんなが思っていたし、そういう声も飛び交っていた。カウンターにいける感じでもなかったので、とにかく耐えよう、と」
乾は7度のセットプレーを防ぎきった直後の89分に、MF宮本航汰との交代でピッチを後にしている。その後はベンチ前で身を乗り出しながら勝利を祈り続けた。チームに関わる全員の気持ちがひとつになった末に手にした勝利を、最後尾で戦況を見守り続けた権田は満足そうに振り返る。