ゴールが生まれた背景「そっちの方がいいかなと思って」
右サイドの深い位置で獲得したスローイン。途中出場のFWクリスティアーノがボールを持ってスタンバイした瞬間に、右サイドバックの関口正大の脳裏にはあるビジョンが閃いた。
「クリス(クリスティアーノ)にはロングスローもあるし、それで中へ放り込むのかなと思ったんですけど、クリスはいいクロスも上げられる。なので、そっちの方がいいかなと思って」
クリスティアーノへ声をかけ、ボールを受け取った関口が素早いスローインからクリスティアーノへボールを返す。対峙したマーカーが混乱をきたしたちょっとした隙を縫って、柏レイソルやV・ファーレン長崎でもプレーした経験を持つ36歳のベテランがすかさずクロスを上げた。
「右のシャドーでプレーしているときには、ああいうクロスを上げられるのが自分の特徴でもあるからね。高い軌道でファーへ、そこしかないというイメージで、いいクロスを上げられた。あとは元希が最高のヘディングシュートを決めてくれた。この勝ち点3は大きいよね」
ニアサイドへ走り込んできたMF佐藤和弘に、ブリーラムのセンターバック2人が引きつけられる。必然的に長谷川がポジションを取っていたファーサイドへの警戒が薄れる。しかも、ファーサイドにいる相手選手は自分より明らかに身長が低い。長谷川のなかでも明確なビジョンが浮かんだ。
「実はヘディングは苦手なので、自分でもちょっとびっくりしています。ただ、相手選手の身長の低さを見たときに『叩ける』と思いました。クリスはいいボールを蹴るし、実際にいいボールが来たので、あとは合わせるだけでした。大勢のサポーターの前で点を決めるのはすごく気持ちがいい。これまで自分がサッカーをやってきたなかでも、なかなか経験したことがないものでした」
クロスをクリアしようとジャンプした、身長173cmのMFピーラドル・チャムラサミーの最高到達点を、177cmの長谷川のそれが計算通りに大きく上回る。背番号「10」の頭で完璧にヒットされたボールが、緩やかな弧を描きながらゴール左隅へ吸い込まれた。相手キーパーは一歩も動けなかった。
法政大学サッカー部で長谷川と同期で、ともに2021シーズンから甲府に加入したキャプテンの関口をして「意図的というか、必然だったと思う」と言わしめ、国立競技場に地鳴りのようなファン・サポーターの声援をとどろかせた長谷川のゴールが歴史を大きく動かした。