「絶対に許さん」父の本音
その日の甲府は0-2で金沢に完敗。
帰りの車の中で、父は強い口調でこう言った。
「早く勝ってくれ。『須貝がいないから負けた』なんてこんは、絶対に許さん」
今までどんな主力選手が移籍しても、父がそんなことを言ったことは一度もなかった。父の須貝選手への思い入れの強さを感じ、私は車の中で拳を突き上げた。
「今年絶対昇格して、来年の鹿島戦で思いっきりブーイングしてやらないと気が済まないよね!」
「おう!そうだそうだ!」
土砂降りの環状線で、父はアクセルを踏んだ。
翌日。洗濯を終えた須貝選手の名前入りタオルマフラーを父に渡した。ホーム金沢戦でも父は須貝選手のタオルマフラーをショルダーバッグの中に入れていたらしい。
「もう、これ要らんな」
父が物憂げな表情を見せて私に返そうとするので、私はタオルマフラーを父に押し付けた。
「須貝くんが日本代表になったら掲げるためにとっておきなよ」
父は何も言わずにタオルマフラーを受け取る。
そして自分のクローゼットに大事そうにしまった。
いつかそのタオルマフラーが日の目を見る時まで。
「またな」
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【了】