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Jリーグ 1年前

「齊藤未月のことを思えば…」ヴィッセル神戸がプレーに込めた同僚へのメッセージ【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

「あの才能は他の選手にはない」

全治1年を要する怪我に見舞われたヴィッセル神戸MF齊藤未月
【写真:Getty Images】



「試合中はもちろんそれ(未月のために)を意識しているわけではないですけど、それでも未月に対する思いはチームのみんなが持っている。ここまでこの順位にいられたのも、未月のプレーが何度もチームを助けてくれたから。その未月が抜けた直後の試合で、もちろん彼がいない難しさをすごく感じたし、彼の穴をどのように埋めていけばいいのか、という課題は本当に難しいものだと思っている。

 ただ、未月が持つあの才能は他の選手にはないものだし、同じことを求めるのはちょっと難しいと思っている。ただ、それでも未月がいない、ということはもう決まってしまったし、そのなかでどのようにして自分たちらしい試合に持っていくのか、というのはすごく大事になってくると思う」

 自分たちらしい試合とは何か。今シーズンの神戸を支えてきた球際の強度が高い守備と、ボールを奪うや最前線の大迫勇也をまず標的にすえる堅守速攻の融合であり、元スペイン代表のレジェンド、アンドレス・イニエスタが自分の居場所はなくなったと悟り、退団に至らせた最大の要因でもあった。

 オフの間に新しい戦い方を身にまとった神戸は、前半から試合の主導権を握って先制点を奪い、試合を優勢に進めながら逃げ切り、あるいは追加点を奪う展開で確実に勝ち点を積み重ねてきた。

 しかし、FC東京戦は思い描いていたものと対極に位置づけられる展開となった。

 先制点をあげたのはFC東京。開始18分。左サイドでMF渡邊凌磨とボールを争っていたDF本多勇喜が、GK前川黛也へ必死にバックパスをつないだ直後だった。縦パスをFW仲川輝人のほぼ正面につけた前川のミスから、最後はFWディエゴ・オリヴェイラにゴラッソを決められた。

 下を向きかねない痛恨のミス。それでも大迫は「ミスは仕方がない」と周囲を鼓舞するように言う。

「ミスをした後の対応というのが一番大事になってくる。ミスを引きずるのではなくて、気持ちを切り替えてやり続けることが、最終的に勝ち点を拾える大きな要因になってくるので」

 先制点を献上した瞬間から、前川は気持ちを切り替えていた。覚悟と決意が具現化された場面が69分に訪れる。右サイドを突破してきたDF長友佑都のクロスを本多が体を張ってブロック。直後にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入し、本多のハンドでPKが宣告された。

 キッカーはMF松木玖生。リードを2点に広げられれば、状況はさらに苦しくなる。両チームの選手交代などで時間を要していた間にベンチから松木の情報を得ていた前川は、左利きの松木が前川から見て左側を狙ってきた弾道を完璧に読み切り、ダイブしながらしっかりと弾き返した。

「情報通りのところで、僕自身も(先に動くのを)我慢して対応できたかなと思っています。個人的なミスがあった後に、もちろん止めたい、という思いもありましたけど、それを止めたからといって失点が返ってくるわけでもない。そこはしっかりと受け止めて、繰り返さないようにやっていくだけです」

 汚名返上のビッグセーブをこう振り返った前川は、齊藤へ抱く思いも明かしている。

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