悲劇から1週間
「負けなかったことはよかったと思いますけど、内容的にもう少し自分たちのゲームにできたような気がする。そこは改善の余地があると思っています」
いつものヴィッセル神戸とは異なる11人が国立競技場のピッチに立った。無尽蔵のスタミナをフル稼働させながらボックス・トゥ・ボックスを走り回り、相手ボールの奪取力とセカンドボールの回収力に長け、攻撃面でもサポートに絡み続ける中盤のダイナモ、齊藤未月の姿はそこになかった。
ホームのノエビアスタジアム神戸で柏レイソルと引き分けた19日の前節。両チームともに無得点で迎えた22分に悲劇は起こった。直接FKの折り返しに反応してボックス内へ走り込み、右足でシュートを放った齊藤を、柏のDFジエゴ、MF戸嶋祥郎が左右から挟み込む形でブロックした。
ピッチに倒れ込んだ齊藤は立ち上がれず、担架でピッチから運び出されて扇原との交代を余儀なくされた。2日後の21日に神戸が発表した齊藤の検査結果が、サッカー界を震撼させた。
負傷は大きな衝撃を受けた軸足の左膝に集中していた。関節脱臼、左膝複合じん帯損傷と内外側半月板損傷。複合の内訳は前十字じん帯断裂、外側側副じん帯断裂、大腿二頭筋腱付着部断裂、膝窩筋腱損傷、内側側副じん帯損傷、後十字じん帯損傷で全治までは「現時点で約1年の見込み」と発表された。
前例がないと言っていい大怪我を、山口はFC東京戦後のフラッシュインタビューで「選手生命に関わる」と表現した。しかし、誰よりもショックを受けているはずの齊藤は、神戸の発表からほどなくして自身のインスタグラムを更新。綴られたメッセージがチームメイトたちの心を逆に震わせていた。
「とにかく今はゆっくり時間をかけて復活するためのプランを自分の中で考えておきます!どこかで僕に会った時は悲しい顔をせず笑顔でエネルギーを僕にください!全部吸い取って強くなるので。そして今できることはヴィッセル神戸の優勝の為に力を貸すことです。ポジティブなエネルギーをチームにもたらせるように全力で向き合いたいと思います。まだまだこっからです」(原文ママ)
今シーズンに湘南ベルマーレから期限付き移籍で加入した齊藤が、リーグ戦を欠場するのは今回で3試合目だった。FC東京戦の前までは保有権を持つ湘南戦、前節の試合で受けた退場処分で出場停止が科された横浜FC戦だった。同じ欠場でも意味が大きく異なると誰もが感じていた。
キャプテンとして、試合前に「未月のために」とチームに声をかけた山口が言葉を紡いだ。