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明治安田生命J1リーグは23節を消化し、優勝争いと残留争いはともに熾烈なものとなっている。混戦から抜け出すためには、記録的な暑さを乗り越えるコンセプトが必要になってくるだろう。今週もまた、『現代フットボールの主旋律 ピッチ上のカオスを「一枚の絵」で表す』の著者である“異端のアナリスト”庄司悟氏の視点を明かす。(文:庄司悟)
「非優等生領域」のヴィッセル神戸と名古屋グランパス
2023年4月に開始した「Jの十字架」(主に縦軸=パス成功数×横軸=ボール支配率)のメインテーマは、各チームのコンセプトの大枠を見極めることにある。毎回、「優等生領域」「非優等生領域」と、しつこく分別しているのは、昨年のFIFAワールドカップカタールで「非優等生領域」の日本代表が「優等生領域」のドイツ、スペインに勝ったからだ。すなわち、「日本代表の影響はJリーグにも伝播するのか」が、今シーズンの裏テーマといえた。
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本連載でも何度も指摘しているように、ここまで「非優等生領域」のヴィッセル神戸、名古屋グランパスが結果を残しているのは周知の事実だ。そして、先週(第22節)は酷暑の影響もあったのか、「非優等生領域」のチームが軒並み勝利を挙げた。相変わらずの暑さだった第23節の十字架(縦軸=パス成功数×横軸=ボール支配率、図1)を見ればわかるように、今節も「非優等生領域」が結果を残している(神戸は「優等生領域」だったが、川崎フロンターレに退場者が出たためで、本来は「非優等生領域」だったはずだ)。
酷暑=「非優等生領域」優位説は、図2(縦軸=得点率×横軸=シュート1本にかかった平均パス本数)を見ても明らかだろう。シュート1本にかかった平均パス本数が多かった6チームは3分3敗と散々だった。
一方で、優位な「非優等生領域」だった浦和レッズは負け、柏レイソル、湘南ベルマーレは引き分けに終わっている。前節との位置を比較すると、浦和は右上からの大移動、柏、湘南は同じく左下のままだった。浦和は付け焼刃のコンセプト、柏、湘南は逆に暑さに溶かされてしまう程度のコンセプト、と言えなくもない。言い換えれば、今節は暑さにコンセプトを溶かされなかったチームと、暑さにコンセプトを溶かされたチームが浮き彫りになったともいえる。
ここで思いだすのは、フェリックス・マガトの言葉だ。ドイツ人指導者の中でも際立ってハードなフィジカルトレーニングを課す「鬼軍曹」は以下のように言っている。
「コンディショントレーニングには2種類ある、シーズンを通して常に最上のパフォーマンスを発揮するレーニングと、90分を通して常に最上のパフォーマンスを発揮するトレーニングの2種類だ。これを同時にこなさなくてはならない」
コンセプトとはやはりシーズンを通したもの、かつ暑さでも溶けないもののことを言う。「鬼軍曹」に認められうる「本物の非優等生組」は、前述の神戸、名古屋、そして、アビスパ福岡くらいではないか。「優等生」「非優等生」にかかわらず、シーズンを通したコンセプトがなければ夏場を乗り切ることはできない。
(文:庄司悟)
庄司悟(しょうじ・さとる)
1952年1月20日生まれ、東京都出身。1974年の西ドイツ・ワールドカップを現地で観戦し1975年に渡独。ケルン体育大学サッカー専門科を経て、ドイツのデータ配信会社『IMPIRE』(現『Sportec Solutions』。ブンデスリーガの公式データ、VARを担当)と提携し、ゴールラインテクノロジー、トラッキングシステム、GPSをもとに分析活動を開始。著書に『サッカーは「システム」では勝てない データがもたらす新戦略時代』(ベスト新書)、『現代フットボールの主旋律 ピッチ上のカオスを「一枚の絵」で表す』(カンゼン)。
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