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アクチュアルプレーイングタイム(APT)は、試合の中で実際にプレーが動いている時間の長さを指す。APTというワードがたびたび話題となるが、APTが短いチームにはどのような傾向があるのだろうか。“異端のアナリスト”庄司悟氏は、他のデータを関連付けながらAPTの性質をひも解く。(文:庄司悟)
APTが短いチームは効率が良い?
先々週の9日に行われたJ2、FC町田ゼルビア対東京ヴェルディ戦後に東京Vの城福浩監督が「アクチュアルプレーイングタイム(APT)=正味時間」に言及したことで、APTの長短が話題にのぼった。ちなみに同試合のAPTは両チームの今季平均(町田=49.0、東京V=52.9)を大きく上回る56.46だった。そこで今回はJ1各チームのAPTと関連する数字を探し出し、APTの短いチームの共通点を洗い出す。
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一つ目の視点は、APTが長い・短いで、分母と分子もそのまま縮小するのか、という点。APTとパス成功数を分母、シュート数を分子にした「シュート率」を表した図1を見てもらいたい。APTの長さとシュート率の高さは反比例していることがわかる。言い換えれば、APTが短いチームほどパス成功数に占めるシュート数が多い、ということだ。ただし、シュート数と得点率は自動的に結びついてはいない。
APTで思いだすのが、2014年のブラジル・ワールドカップである。準々決勝ブラジル対コロンビア戦のAPTが39分でブラジルのファウル数は31回、準決勝ブラジル対ドイツ戦のAPTが62分でブラジルのファウル数は10回。要するに、「タクティカル・ファウル」で試合を分断し、相手にリズムを作らせないブラジルに対して、ドイツはそれをうまくいなして歴史的な大勝を飾った、というわけだ。
現在はビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が導入され、悪質なファウル=レッドカードとみなされるリスクが高まっているので、APTが短いチームはさらなる工夫をしているはずだ。それは、ボールが動いている時間に質の高い走りをして、ボールが動いていない時間に休むような工夫かもしれない。
いずれにせよ、APTが短いチームはパスを効率良く繋ぎ、得点率の高いシュートに結びつけるという大義名分は持ち合わせているはずだ。J1第21節までの2つの十字架(縦軸=得点率×横軸=シュート率、図2、縦軸=パス成功率×横軸=APT、図3)を並べてみると、APTが短い組で上位にいるヴィッセル神戸と名古屋グランパスは、「パス成功率は低くても、シュート率が高く、かつ得点率が高い」という共通点があることがわかる。
APTの長短だけで善悪を決めつけるのは早計かもしれない。
(文:庄司悟)
庄司悟(しょうじ・さとる)
1952年1月20日生まれ、東京都出身。1974年の西ドイツ・ワールドカップを現地で観戦し1975年に渡独。ケルン体育大学サッカー専門科を経て、ドイツのデータ配信会社『IMPIRE』(現『Sportec Solutions』。ブンデスリーガの公式データ、VARを担当)と提携し、ゴールラインテクノロジー、トラッキングシステム、GPSをもとに分析活動を開始。著書に『サッカーは「システム」では勝てない データがもたらす新戦略時代』(ベスト新書)、『現代フットボールの主旋律 ピッチ上のカオスを「一枚の絵」で表す』(カンゼン)。
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