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“あの日”から2年。死の淵を知ったエリクセン、心境の変化と壮絶な復帰までの道のり【コラム】

シリーズ:編集部フォーカス text by 安洋一郎 photo by Getty Images

死の淵を経験したエリクセンが伝えたかったこと


【写真:Getty Images】


 見事に復活を遂げたエリクセンは、2023年5月に各年に世界のスポーツの各分野で活躍した個人及び団体を選出して称える賞である『ローレウス世界スポーツ賞』の『カムバック・オブザイヤー』を受賞した。

 パリで行われた授賞式に登壇したエリクセンは「この1年半は、浮き沈みの激しい、信じられないような日々だった。最大のダウンは(ユーロで)倒れたときで、僕の人生を悪い方向に変えてしまった。しかし、幸運なことに、医師や救急隊員、周囲の人たち、そして当時のチームメイトが、素早く反応してくれて、私を取り戻してくれた」と感謝の言葉を述べた。

 続けて「僕は普通の日常生活を送っていると思う。その中で、自分らしく過ごすことで、自分の人生や子供たち、家族との時間を以前より少し楽しめるようになったし、何事にもリラックスできるようになった。(おかげで)以前ほど緊張していないし、自分の行動力が変わったんだ」と、困難を乗り越えたことでの心境の変化についても語っている。

 そして、スピーチの最後には、説得力のあるメッセージを残した。

 「人生はとても良いものです。人生はとても大切です。命はとても大切なのです(”Life is very good. Life is very important. Life is very important.”)」

 彼が体験した「死への恐怖」や「再び心臓が止まってしまうのではないかというトラウマ」は、この困難を経験した人にしか感じられない、想像を絶するものだろう。健康に生活している人からすれば想像をすることも難しい。

 だからこそ伝えたかった心の底から出た”重い言葉“だった。

 現在エリクセンは2年前の出来事がなかったようなトップパフォーマンスをみせている。だが、その背後にある彼が周りのサポートを受けながら、多くのハードルを乗り越えた過去を忘れてはならない。

 人生が突如として終わる可能性もあった中で、この絶望から復活した彼の”生き様”やその”言葉”から「健康に過ごしていることが当たり前ではないこと」や「迅速な対応で救える命もある」など、何か感じ取れるものがあるだろう。その感じ取ったものを心にしまい、再びエリクセンの姿を見れば、自然とリスペクトの念や彼の偉大さに気づかされる。

 2023年6月12日で、クリスティアン・エリクセンがピッチに倒れてから2年が経った。“死の淵”という想像を絶する困難を乗り越えた一人の男の人生は、まだ見ぬ未来へと続いていく。

(文:安洋一郎)

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【了】

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