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Jリーグ 1年前

2秒で3つの選択肢。伊藤涼太郎はそのとき何を考えていた?ファンタジスタが見ていた景色【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

ゴールを導き出した瞬時の判断「ただ、そこにはゴールの可能性があまり感じられなかったので」



「なので、左から(田上)大地君が上がってきていたのがわかっていたので、途中で左を使おうかどうか悩んだんですけど。ただ、そこにはゴールの可能性があまり感じられなかったので」

 左サイドバックの田上大地が、左サイドをフリーで駆け上がってきていた。ただ、ゴールから遠ざかる分だけネットを揺らす確率は低くなる。2つ目の選択肢も削除しかけていた伊藤の視界に、左サイドからゴール中央へ、右斜め前へのコースを走り込んできた谷口の姿が入り込んできた。

 前方を見れば、伊藤が時間を作っている間に対面にいたDF高橋直也が間合いを詰めてきていた。つまり高橋の背後にはスペースが生まれ、谷口はそこを突くためにスプリントを仕掛けていた。しかも谷口によれば、伊藤との間で「ほんの一瞬だけ、目と目が合った」という。

 一瞬のアイコンタクトでも伊藤には十分だった。次に繰り出すプレーが決まったからだ。

「(谷口)海斗君が本当にいいタイミングで中に入ってきてくれて、僕に新しい選択肢をくれました。しかも(湘南の選手が)誰もマークについていなかったのが見えたので、ゴールが生まれる可能性がより高い方へパスを出した形です。ゴールに直結するパスを出すのは自分が得意にしているプレーであり、仕事でもあるので。最後は海斗君がうまくゴールを決めてくれました」

 視線を田上の方へ向け、左足でキックモーションに入りながら、ボールにコンタクトする刹那に体を右方向へねじった。目前まで迫ってきていた高橋の重心も、つられるように田上がいる方へ傾く。必然的に開いた高橋の股の間を、ノールックで放たれたパスが鮮やかにすり抜けていった。

 テクニックに遊び心を融合されたトリッキーなプレーが、子どもの頃から大ファンだった元ブラジル代表の魔術師ロナウジーニョをほうふつとさせる。それでいて湘南ゴールに背を向けた体勢になった谷口がトラップしやすいように、ラストパスのスピードは可能な限り抑えられていた。

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