井原正巳監督の斬新な采配とは?
「今までは『このくらいのプレーはいいのか悪いのか』といった迷いがあったけど、今はミスを許容されている。『チャレンジのミスは何も問題ないけど、消極的なミスだけはやめよう』と井原さんが練習から話してくれたんで、そういう意識でやりました」と高嶺朋樹が話すように、点を取りに行く強気の姿勢を前面に押し出した。そこは井原監督就任の大きな効果だと言っていい。
内容的には押しながらも、柏は1点のビハインドを背負ったまま試合を折り返した。後半は何としても追いつこうと闘志をむき出しにする。井原監督の動きも早く、後半13分には山田康太に代えて193cmのオランダ人FWフロートを投入。彼をトップに配置し、細谷を右サイドに回すという斬新な采配を見せたのだ。
細谷の右というのはユース時代にはあったというが、プロになってからはほぼ初めて。それでも「始まる前からちょこっと言われていたので準備はしていた」と本人は自信を持ってプレー。スピードを生かしたサイドからの突破はもちろん、特に献身的な守備でチームに貢献しようという意識を色濃く出していた。
この斬新な采配が後半21分に結実する。汰木からのバックパスが出た瞬間、細谷は猛然と対面の本多勇喜にボールを奪いに行ったのだ。そこで慌てた本多がバックパス。GK前川黛也も高い位置を取っていたことから、ボールは無人のゴールに吸い込まれ、柏に待望の同点弾が転がり込んだ。
「軌道的に枠に入っていたので(ゴールに)入ったと思いました」と殊勲の背番号19も嬉しそうに話す。この日、日本代表の前田遼一コーチが視察していたことは知らなかっただろうが、「FWの大先輩・大迫に負けていられない」というパリ五輪世代の点取り屋の意地が、このワンプレーに凝縮されていたのだろう。
ここから柏は猛然と攻め込み、一方的にゲームを支配。直後にはフロートが得点機を迎えるなど、ギアを上げていく。後半36分には途中出場の武藤雄樹の右クロスに細谷がボレーで合わせるビッグチャンスが生まれたが、シュートは惜しくも枠の外。背番号19は頭を抱えていた。
さらに37分にはフロートが強引な突破から右足を一閃。これが入っていたら間違いなく柏は逆転勝利していただろう。「後半は何もできなかった」と神戸の齊藤未月も悔しさをにじませたが、首位相手にこれだけ圧倒した試合ができるということを示した点は、新体制の柏にとって朗報と言っていい。