「石原広教にもっとみんなで反応しないといけない」
小学生の時から緑と青のユニフォームを着てきた石原は、敗戦の責任を逃げることなく背負った。試合終了後、石原は顔を上げることができなかった。そして、場内を一周する際、キャプテンの大岩一貴に思いの丈をぶつける様子も見えた。
「広教が(気持ちを)表現してくれて、それに対してもっとみんなで反応していかなきゃいけない。そういうことが今は必要だと思う」
石原と同学年の杉岡が言うように、今の湘南にはチームメイトに対して要求する姿勢が足りていないのかもしれない。振り返ると、石原は2020年に3バックの真ん中でプレーしていた時期がある。169cmと小柄な石原を中央に据えた理由の1つに、当時の浮嶋敏前監督は「声を出して味方を動かせる」ことを挙げていた。
果たして、声で味方を動かせる選手が今の湘南にどれだけいるのだろうか。自分に矢印を向け続けた結果、チームに矢印を向けなくなっているのかもしれない。「みんな一生懸命やっている」と前置きしつつ、杉岡は「良くも悪くも自分自身に目を向けてしまう」と話す。
「11人でやっているスポーツなのに、みんなが個人個人で精一杯になっている。人のせいにするのではないですけど、周りにどうしてほしいとか、どういうポジションを取ってほしいとか、求めることは必要だと思います。人のせいにするのと紙一重だと思いますけど、そういうことをやっていかないと繋がっていかない。そういう要求がチームとして少ないというのは僕自身の課題でもありますし、そういうところは表現する選手がいないと高め合っていけない」
懸命にもがき苦しんでいる姿は試合後の選手の様子からも感じる。ただ、勝敗以前に必要な躍動感がプレーからは感じられなくなっている。山口監督が足りないと指摘する「根本的なところ」は、かつて曺貴裁元監督が言っていた「プレーの責任を負う」ことに近いものを感じる。
この試合で湘南は3-4-2-1といういつもと異なる配置で臨んだが、それはこの試合の敗因のほんのわずかな要素の1つに過ぎない。「きれいごとじゃない根本的なところ」を解決しない限り、昨年までと同じ景色を見続けることになるだろう。
「今を変えれば未来が変わる」
ゴール裏に掲示されたオフィシャルスポンサーの株式会社リップルコミュニティのコピーが沁みる。
(取材・文:加藤健一)
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