「とんでもない量の試合を見る」勉強家
監督より年上の35歳にしてチームの絶対的な支柱でもあるキャプテンのCBユニス・アブデルアミドは、スティルについて「彼は多くのことを観察してから、徐々に自分の考えを適用していった」と地元紙『L’Union』に語っていた。
「僕らが目指しているのは、自分たちがアクションを生み出す側になるということ。状況に左右されることなく、自分たちが繰り出していく。相手が誰だろうと関係なく、自分たちが試合のテンポを作り出す。それがウィル(監督)が実現しようとしていることなんだ」
3月9日に30歳の誕生日を迎え、監督と「同い年」になった伊東も、スティル監督について「彼はベルギー時代から僕のことは知っていたので、自分のプレーをわかってくれてると思いますし、ある程度攻撃の部分では自由にやらせてもらって、信頼してもらってるかなと思うので、そういう部分が自信に繋がってうまくできてるかなと思います」と話している。これは、伊東が1ゴール2アシストと3得点全部に絡んで3-0で快勝した25節のトゥールーズ戦の後の発言なのだが、地元紙によれば、この試合の前、ロッカールームでスティル監督が伊東に「しばらくゴールがご無沙汰だな!」と発破をかけ、伊東がこれに「心配ないですよ」と返すやりとりがあったらしい。88分に彼を下げたとき、スティル監督は伊東を熱烈ハグで出迎えたが、監督冥利につきる思いだったことだろう。
週中は、「とんでもない量の試合のビデオを見る」という勉強家であり、いろいろな人と意見交換しては、常にアイデアを得ているという。ベルギーリーグで監督業をしている兄もその一人だ。ゲーム好きだからといって「戦術オタク」ではなく、戦術以外にも、サッカーの心理的な面やフィジカル面にも非常に興味があるそうだ。
サッカークラブの監督は、「世界で最高の仕事」だとスティル監督は言う。
「選手やスタッフと一緒にピッチに出て、トレーニングをし、今日みたいに(アジャクシオ戦)、最後の瞬間に勝利をもぎとるような試合を体験する。それは本当に特別な体験で、僕がずっとずっと愛してやまないことだ」
欧州のサッカー界も、彼に注目している。やはり目標は、プレミアリーグのクラブを率いることか?
「いつかはね。(イングランドは)自分の故郷だと感じている。だからいつかはふるさとに戻りたい。でも僕はまだ30歳だから、まだまだ時間はあるさ!」
イングランドのフットボールに熱中して育ち、ベルギーでキャリアをスタートし、フランスリーグで初めて正監督となった。プロ選手の経験はないが、あふれるサッカー愛と情熱を持つウィル・スティル。いまスタッド・ランスで目にしているのは、歴史に名を残す名監督誕生の瞬間かもしれない。
(取材・文:小川由紀子【フランス】)
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