理想と現実のミスマッチ
「今の若い選手に共通することかもしれませんけど、『急いでステップアップしたい』という考えが周りを含めて強すぎるのかなと感じることもあります。『25歳までにビッククラブへ行かないと成功できない』といった危機感が強すぎるせいか、辛抱強くポジションを勝ち取ることができない。そうなると結局、移籍を繰り返すことになりがちです。
監督はいつ変わるか分かりませんし、誰もが自分を評価してくれるわけではないですから、『この監督は自分に何を求めているか』をつねに把握して、それを出せるように努力していかなければいけない。敬斗にもそういう話はしましたけど、今のリンツに行ってからは辛抱強く同じチームでアプローチを続けましたね。その結果、輝き出した。今季はゴールも重ねていますし、自己評価がしっかりできるようになったのかなと感じます」
シントトロイデンから大きく飛躍した遠藤、冨安、鎌田の3人は正しく自己評価ができる選手たちだった。自分の現在地をしっかりと見極めたうえで、何をすべきかを導き出し、それをピッチで実践したからこそ、短期間で高いレベルにステップアップできたのだ。しかしながら、誰もがそういった成功モデルを体現できるとは限らない。
今の若い日本人選手たちは知識が多すぎるがゆえに、理想と現実をうまくマッチさせられない部分もあるのだろう。そういった冷静さや視野の広さを身に着ける意味でも、やはりJリーグで実績を積み上げることは必要不可欠なのかもしれない。欧州サッカー界の動きや価値観を日常的に触れている立石CEOの意見に今一度、耳を傾けることも重要ではないだろうか。
(取材・文:元川悦子)
プロフィール:立石敬之(たていし・たかゆき)
国見高校時代に全国高校サッカー選手権大会優勝し、創価大学、ブラジル、アルゼンチンなどへの留学を経てベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)、東京ガスサッカー部(現FC東京)、大分FC(現大分トリニータ)でプレー。現役引退後は大分トリニータ、FC東京で強化部長やGMを歴任し、2018年にベルギー・シントトロイデンのCEOに就任。2023年1月でJリーグ理事を退任し、同年2月よりアビスパ福岡の副社長に就任する。
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