国見対鹿児島実業 名将が激突した超頂上決戦
第69回大会(1996年度)決勝
国見 1-0(延長) 鹿児島実業
優勝候補筆頭の清水商業高校が3回戦で敗退。混戦模様を呈した大会は、ベスト4に九州勢の3チームが勝ち上がる。その中から最後の1試合へと駒を進めたのは国見高校と鹿児島実業高校。小嶺忠敏監督と松澤隆司監督。ともに一代でチームを全国有数の強豪へと育て上げた名将の対峙は、史上初となる九州勢同士の決勝としても注目されていた。
そんな試合は、0対0のままでもつれ込んだ延長で結着する。92分。高知から長崎へと越境入学してきた『四国のマラドーナ』中口雅史のトーキックが、懸命に飛びつくGK仁田尾博幸を避けるように、カーブを描いてゴールへ突き刺さる。その瞬間。中口がまっしぐらに駆け出した行き先は、ベンチの前で待ち受ける小嶺監督。抱きつく殊勲のスコアラーに、涙ぐみながら応える指揮官。そこには2人だけにしかわからない確かな絆があった。
その7年後。群馬県の高崎高校3年生だった私は、幸運にもインターハイで全国大会に出場する機会に恵まれた。県大会決勝。劣勢の続く後半、結果的に決勝ゴールとなった1点を叩き出した瞬間、試合前からイメージしていたあの日の中口のようにベンチへとダッシュしたのだが、抱きつきたかった監督は指示を出すことに懸命で、こちらを見ていなかったのだ。
圧倒的不利と言われていた我々の望外の先制。今ならそれも理解できる。ただ、行き場を失った私は少しだけ時間を置き、再びピッチへと戻っていった。やはり現実はそんなにうまく行くわけではない。ちなみに、そのときの全国大会の準々決勝で我々が負けた相手は国見だった。そう考えるとあくまで極私的ではあるが、不思議な因縁を感じてしまう。
<雑誌概要>
『フットボール批評issue38』
定価:1,760円(本体1,600円+税)
特集:【永久保存版】高校サッカーの名将は死なない
すべての指導者に贈るサッカーのい・ろ・は
2019年に講談社から刊行された『高校サッカー100年』の7年前、100年史の予行演習版のような『高校サッカー90年史』が出版されていることをご存じだろうか。90年史の制作に携わった関係者に出版の真意を聞くと、「早めにやっておきたかった企画もあったので」という答えが返ってきた。
“早めに”が何を言わんとするかはそれぞれの想像に任せるとして、高校サッカーの名将から発せられる言葉は、時にサッカーの、時に人生の本質を抉ってくるものが多い。もちろん、その言葉には本音と建前が混ざり合っている。表と裏を使い分けているからこそ、高校サッカーの名将たちの言葉は生き続けていくのだろう。
【了】