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華麗なパスワークがないのもアルゼンチン代表らしさ。伝統のスタイルで決勝へ【カタールW杯】

シリーズ:分析コラム text by 西部謙司 photo by Getty Images

2つのスタイルが並列するアルゼンチン代表



 今大会で注目を集めた20歳のCBグバルディオルは正確で鋭いパスと強靭な対人守備で、チームのベスト4進出に大きな貢献をした。そのグバルディオルの執拗なマークをふりほどいたメッシはさすがに只者ではない。グバルディオルはすでにイエローカードを貰っていた事情もあり、強引なファウルができない。ボックスに近づくとキープから勝負に切り替えたメッシはそれも頭にあったのかもしれない。

 3点リードで余裕を持ったアルゼンチン代表は、これまで出番のなかった選手を中心に4人を交代。そのままゲームを終わらせた。

 アルゼンチン代表は伝統の攻守両面での球際の強さを随所に発揮している。ブラジルの砂浜のサッカーに対して、アルゼンチンは牧草のサッカーとよく言われる。頻繁にボールが止まるのでコンタクトに強いという表現なのだが、実際にアルゼンチンのフィールドは芝生が深い。ボールが止まりやすいせいか、アルバレスの2点目のように相手の足に当てながら運んでいくドリブルを得意としている。3点目のメッシのアシストもDFを引きずるように運んでいった。

 今回のアルゼンチン代表には華麗なパスワークなど全然ない。随所で戦い続ける力闘型だ。アタッカーの宝庫なのにこういうスタイルを選択するのも伝統で、ディエゴ・マラドーナを擁して優勝した1986年大会もこれだった。

 アタッカーを並べて攻撃重視の編成も一方ではあるのだが、メッシやマラドーナがいるときは力闘型のほうが効率はいいのかもしれない。スーパースターがいれば1点はとれるので、残りの選手のハードワークで最少失点に抑えれば勝機はみえてくる。耐えて粘って天才の一撃で勝つというのが、国民的な感動のツボにもなっている。

 アルゼンチンは攻撃型と守備型の2つのスタイルが並列であるという珍しい国だが、今回はより根強いほうのアルゼンチンらしいスタイルで決勝進出にこぎつけている。

(文:西部謙司)

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【了】

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