安定感と引き換えに失ったもの
試合が振り出しに戻ったところで、先に動いたのはクロアチア代表だった。長身FWブディミルを投入してボックス内の圧力を強めた。先発のブルーノ・ペトコビッチとタイプは同じなのだが、よりフレッシュな選手に代えたわけだ。
森保一監督が動いたのは64分、定番の長友佑都→三笘、前田→浅野拓磨の交代。さらに75分には鎌田を代えて酒井宏樹。酒井は右ウイングバックに入り、伊東が左のサイドハーフにスイッチする。そして87分には堂安律を南野拓実に交代、これで伊東は再び右サイドへ。しかし、三笘は左ウイングバックのままで、相手陣内で勝負をかけたのは1回だけ。日本代表に決定機はなく、クロアチア代表はモドリッチとペリシッチに際どいミドルシュートがあった。
延長に突入すると、クロアチア代表はモドリッチ、コバチッチを下げて運動量低下を防ぎつつ、より高さ勝負に的を絞る。延長15分、三笘が自陣から一気にドリブルで運んで強烈なミドルで狙うがGKに防がれる。延長後半には三笘が自らの持ち出しもあって、ようやく敵陣でプレーするようになるが回数は限られていた。5-4-1ブロックの安定感と引き換えに日本代表は攻め手を見いだせないまま120分間の激闘を終えた。
PK戦は4人のうち3人が決めたクロアチア代表に対して、日本代表は3人が止められ、5人目のキッカーが蹴らないまま敗退となった。止められた南野、三笘、吉田のキックは3本ともサイドへ低く置きに行く感じだったのをGKリバコビッチの鋭い反応でストップ。少し余裕がない感じもあったが、PK戦はどちらに転ぶかわからないもの。その前に決着をつけられなかったので仕方がない。
“良い守備から良い攻撃”が今回の日本代表の一貫した方針だった。しかし、この試合では後半から守備をする場所が低すぎて良い攻撃に結びつけられる可能性が低かった。守備を攻撃に結びつけるものがなく、押し込まれた時点で勝機の薄い流れになってしまっていた。
(文:西部謙司)
【了】