プレスを受けても前進できるメカニズム
中央ではANが相手フォワード(FW)の背後で常にボールを引き出す準備をしているので、そこを経由して展開する狙いもあります。勿論、ANが起点になることは相手も織り込み済みです。しかし、そのANが消された時にはIHが下りてヘルプするという構図になっています。
ボード上でこれを語るのは簡単、言うは易しです。ここで大事になってくるのがIHの下りるタイミングと距離になります。仮に相手に捕まっているANにボールが入ったとしても、1タッチで渡せる場所とタイミングでIHがサポートに入る。そうすることで局面で2対1の状況を作り出し、前進することが可能になります。このタイミングが遅れたり、距離が遠かったりするとANへのヘルプとしては成立しないのです。
このように、基本的には1-4-1-2-3の配置から大きくずらす事なく、局面のサポートを繰り返す中で前進を試みますが、これらを成立させる為に必要な要素がやはり技術の高さです。この基本配置からずらすことなく後方からボールを引き出そうとすると、角度を作り辛くなることがあります。
様々な試合でもよく見られる現象ですが、「縦方向」に真っ直ぐ下りてボールを受けると、受け手が苦しくなる事が多くあります。それでもスペイン代表の彼らは少しでも時間とスペースがあればターンする。或いは、ヒールキックなどを用いて自らの背後へパスを通す。つまり「前」へプレーすることができるのです。
仮に「前」へ行けなかったとしても、ボールを失わない。相手をプロテクトしてしっかりとボールを隠す。その間に、周囲がサポートして「前」や「次」が観えている人から展開していくのです。
(文:渡邉晋【モンテディオ山形コーチ】)
【後編】スペイン代表は「間」を意識して背後を突く。サッカー日本代表が狙うべきポイントは?
プロフィール:渡邉晋(わたなべ・すすむ)
1973年10月10日生まれ、東京都出身。現役引退後の2005年から仙台の巡回コーチ、アカデミーコーチ、トップチームコーチを経て、2019年まで約6年間監督を務める。仙台の伝統である堅守をベースにしつつ、スペースを支配し主導権を握るいわゆるポジショナルフットボールを導入。2018年の天皇杯でクラブを初めて決勝に導いた。レノファ山口監督を経て、2022年からはモンテディオ山形のトップコーチとしてピーター・クラモフスキー監督を支える。
ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる(著・渡邉晋)
<書籍概要>
渡邉晋は《切る》《留める》《解放》など独自の言語を用い、ベガルタ仙台に「クレバーフットボール」を落とし込んだ。
実は選手を指導する際、いわゆる『ポジショナルプレー』というカタカナ言葉は一切使っていない。にもかかわらず、結果的にあのペップ・グアルディオラの志向と同じような「スペースの支配」という攻撃的なマインドを杜の都に浸透させた。
フットボールのすべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる――。
ゴールからの逆算、すなわち「良い立ち位置」を追い求め続けた監督時代の6年間を時系列で振り返りながら、いまだ仙台サポーターから絶大な支持を得る「知将」の戦術指導ノウハウをあますところなく公開する。
【了】