言葉に詰まる酒井宏樹が紡いだ言葉
ともに柏レイソルU-15へ昇格した2003年にチームメイトとなった2人は、将来の夢のひとつに「プロ」の二文字を思い描き、多感な十代でさまざまな時間を共有してきた。
柏レイソルU-18をへて、2009年には酒井、武富孝介、そして工藤さんら6人がトップチームに昇格。当時の工藤さんを「リーダーでしたし、常の輪の中心にいました」と振り返った酒井は、一番の思い出を問われると答えに窮してしまった。
「いやぁ、何だろう。どうですかね。仲間と会って話したらいっぱい出てくるんですけど、ここでひとつと言われてもなかなか出てこないです。でも、ふざけ合っていた部分がかなりあったというか、あまり真剣な話をしていなかったので。お互いに結果は気にしつつも、サッカーのことを話すことがあまりなかった。僕らの世代は仲がいいですけど、本当にいつもごく普通の話をしていたので」
同期生のなかで酒井が真っ先に、2012年夏から活躍の場を海外へ移した。ブンデスリーガ1部のハノーファー96、リーグアンのオリンピック・マルセイユをへて、昨夏から浦和でプレー。その間にフル代表で71試合に出場し、ワールドカップ代表には2度選出された。
酒井に続いたのが工藤さんだった。柏のJ1歴代最多得点記録を塗り替えた2015シーズンをもって退団。MLSのバンクーバー・ホワイトキャップでの挑戦は負傷もあって1年で幕を閉じ、2017シーズンからはサンフレッチェ広島、2019シーズンはJ2のレノファ山口でプレーした。
2020/21シーズンをオーストラリアのブリスベン・ロアーでプレーした工藤さんは、今シーズンからJ3のテゲバジャーロ宮崎へ移籍。柏時代の後半から自身の象徴にすえ、バンクーバーや広島、ブリスベンでも背負った「9番」をつけたまま旅立ってしまった。酒井が続ける。
「すごく真っ直ぐな人間でした。ライバルでもなく、常に連絡を取ってるようなベタベタした関係でもなかったけど、それでも僕らの年代はどこか繋がっているものがありました」
謙虚で誠実で、それでいて仲間たちの前では太陽のように明るく笑っていた工藤さんを偲んだマリノス戦前の黙祷時。込みあげてくるものがあったのか。酒井は左手で右目をぬぐっている。終了後には大きく息をついた心境を、酒井は神妙な表情を浮かべながら明かしてくれた。