長谷部誠の老獪さがもたらしたイエローカード
後半の55分には、ケインが背負った長谷部を手で払いのけて味方からの縦パスを受けようとしたが、完璧な対応で起点を潰した。長谷部はしぶとくマークを続け、ケインがパスをコントロールしようとした瞬間に足を出してボールをカット。イングランド代表ストライカーは体勢を崩して地面に手をついたが、ノーファウルでプレーは続いた。同じような状況は試合中に何度も見られ、その度にフランクフルトの背番号20がクリーンなタックルで相手エースにボールを持った状態で前を向かせなかった。
そして84分、ケインの苛立ちはピークに達した。トッテナムのGKウーゴ・ロリスからのロングボールが前線に送られ、競り合った長谷部とケインがもつれながら地面に倒れる。するとケインは起き上がりながら長谷部を踏みつけるような動作を見せた。ダニエレ・オルサート主審はトッテナムの背番号10に迷わずイエローカードを提示する。
芝生に倒れこんだ瞬間のリプレイ映像では長谷部が先にちょっかいをかけたようにも見えたが、これも駆け引き。試合を通して日本人センターバックに自由を奪われてフラストレーションを溜めていたケインは、ついにイライラを爆発させたようだった。主審から警告を受けた後もピッチに倒れる長谷部に何か吐き捨てたように見え、抗議する表情からも苛立ちや不快感がうかがえた。
対戦相手のエースストライカーに付かず離れずの距離感でプレッシャーを与え続け、常にコントロール下に置いて思い通りのプレーをさせず、当然ゴールも与えなかった。ケインとのマッチアップは、最終的にはイエローカードまでプレゼントした長谷部の完勝と言って差し支えないだろう。
フィジカル能力の差は明らかでも、イングランド代表FWを抑え込むことができる。長谷部の豊富な経験と弛まぬ準備があってこそのパフォーマンス。冷静沈着かつクレバーなディフェンスはCLの舞台でも健在だ。