勝ちにこだわる即興の判断
この流れで迎えた後半、川崎はさらに押し込まれてしまう。「前半は守備タスクの位置取りをさせていたが、後半は攻撃に振り切った」と岩政監督が話した通り、鹿島の怒涛の攻めを受ける形になり、後半7分にはリスタートから仲間隼斗に1点を奪われる。
このままいくと、8月10日のYBCルヴァンカップ・セレッソ大阪戦終盤のように、同点に追いつかれる可能性もないとは言い切れなかった。そこで凄まじい形相でチームを鼓舞したのが、谷口彰悟だった。
「絶対に相手にやらせない。何が何でも勝ち点3を取るんだ」とキャプテンは全身全霊を込めて守備陣の意思統一を高めた。彼の脳裏にはもちろんセレッソ戦の反省があったはず。そういう状況下でも勝ち切るためには、華麗なパス回しという川崎のポリシーを一時的に返上しても、泥臭く跳ね返し続けなければいけない…。そんな強い覚悟を抱いていたことだろう。
それは鬼木達監督も同じ。鹿島が最終ラインを3枚にして、前線にエレケ、ブエノといった長身選手をズラリと並べてきた終盤は、徹底的に守り切ることを選手に求めた。そして、ラストの時間帯には山村和也を投入。攻守のマルチプレーヤーをこの日は最終ラインに入れ、5バックにしてゴール前を固めた。
「前日からああいう形があり得ると思って4枚で練習していた。が、最後は5枚の方がいいだろうと思ってやっていない形でトライした。選手たちもしっかりと応えてくれた」と指揮官は即興の判断だったことを明かす。「虎の子の1点を守る」という強い意志がチーム全体から感じ取れた。
「山村選手が入って5バックになったが、彼はラインコントロールを率先してやってくれて、自分たちが優位に進められた。終わらせ方というのはセレッソ戦を含めて、いろんな積み上げができている」と谷口も納得の表情を浮かべた通り、川崎は何とかしのぎ切ってタイムアップの笛。2-1で勝ち切り、首位・マリノスに勝ち点2差まで迫ることができた。