大きな負担を被るのは誰か?
21年度決算を見ると、J2の当期純利益の平均値は1500万円、中央値は1800万円。実は単年の利益で見ると、J2は人件費をはじめとした支出が少ない分、J1よりも経営状態は良い。とはいえ、インボイス制度によって約1090万円の税負担が発生すれば、利益の大半を失うことになる。
また、当然J2の中にも経営規模の差はある。例えば21年度に当期純利益2億7200万円・純資産8億5600万円の純資産がある新潟にとっては、1000万円の増税も賄い切れるかもしれない。しかし、同3500万円・8600万円の秋田や、同▲1億500万円・▲5億400万円の東京Vなどのクラブにとっては死活問題だ。
これらの負担額をクラブがすべて被ることは考えにくい。インボイス制度によって新たに発生する負担額は、クラブが負うか、年俸1000万円以下の選手が負うか、チケットやグッズなどの値上げといった形でサポーターが負うか、決まっていないからだ。
考えられるパターンはいくつかある。ひとつは、クラブが選手に課税事業者への登録を促すこと。特に新人選手はほぼ必ずインボイス制度の対象になる。JリーグはA,B,Cと契約のグレードがあり、B契約とC契約の年俸上限は460万円。松木玖生(FC東京)のように初年度から出場機会をつかみ、A契約まで上り詰める選手もいるが、極めてレアケースだ。
そのため、クラブと新人選手の契約交渉で、課税事業者となりインボイスの発行を契約の条件とすることは十分に考えられる。そうなれば、年俸460万円の新人選手でも最大で消費税41.8万円を支払わなければならない。もちろんこれはあくまで最大値で、経費を控除したり、簡易課税制度を適用したりすればより小さな金額になるが、それでも20万円程度は新たな負担が生まれるだろう。
個人にとって年間20万円の増税がどれほど苦しいか、多くの人が理解できるはずだ。あるいは、インボイス登録を条件とせずとも、消費税分を減額して総額年俸として提示することも考えられる。
選手側は、仲介人をつけることができれば交渉の余地があるかもしれないが、仲介人をつけられない新人や若手選手は、自分や保護者がクラブとの年俸交渉に臨む。よほど税制に詳しいか稀有な交渉力がない限り、クラブに言われるままにインボイスに登録するか、提示額を受け入れるだろう。アスリートは自責追求をする傾向が高いため、「この提示額がクラブから自分への評価なのだ」と納得してしまうからだ。
仮にインボイスによる増税を選手が引き受けてしまった場合、手取り400万円にも満たない大卒新人選手が、4年契約の中で満足な出場機会を得られず、貯金すらできないまま27歳で引退せざるを得ない、という事態が増加することもあり得るのだ。サッカー選手は社会的な信頼が低く、20代後半では第二新卒という立場をとることも難しいため、その後のキャリアに重大な影響を及ぼしかねない。