爆速を生かした守備でも貢献
前田が評価されたのはフィニッシュの局面における勝負強さだけではない。守備のスイッチ役としての貢献度も極めて高かった。Jリーグ時代に何度も見た、猛スプリントでGKまでボールを追いかけて相手を焦らせるようなプレッシングは健在。
爆発的な加速で相手ボールホルダーに詰め寄り、一度ならず二度、三度とスプリントを繰り返してボールを追いかけ回す前田の姿勢はチームを大いに勇気づけた。ただ走るだけでなく、スピードに緩急をつけて相手を追い込み、ボールを奪い切るための技術にも磨きがかかった。
2021シーズンのJ1で記録されたスタッツを見ると、試合別のスプリント回数ランキングトップ10までの8枠を前田が埋めている。最高はJ1第24節の大分トリニータ戦で記録した「64回」。試合の中で高強度のスプリントを果てしなく続けられる肉体的な頑強さは、前田の持ち味の1つだ。
飛び抜けた加速力を持っている選手の中には、キャリアを通じて怪我に悩まされる者も多い。両脚が生み出す爆発的な加速のエネルギーに筋肉や靭帯、腱などが耐えきれず「ブチっ」と切れてしまうことも珍しくない。
だが、前田は違う。多少無理な体勢から走り出しても、回数を重ねても、試合の中で強度が落ちることなく、無限にスプリントを繰り返せる。Jリーグよりも強度が求められ、高速展開になりがちなスコットランドリーグでも前田のスプリント力や運動強度の高さは十二分に通用した。
ポステコグルー監督も「ストライカーは皆ゴールを決めることが大好きだが、彼らは残念ながらゴールだけでしか評価されないことがある」とコメントし、前田の「数字」に表れない貢献度の高さを称賛していた。