1つ目の工夫とは
今のドイツ代表にはポーランド代表のロベルト・レヴァンドフスキのようなボックス内で圧倒的な存在感を放つストライカーはいないが、その代わりにスピードと流動性に優れた選手たちが前線にいる。彼らが活きるには前線にスペースが必要となるのだが、それを引き出すためにチームの戦術として工夫を凝らしている場面があった。
その代表的な場面が32分から33分にかけてのプレーだ。ドイツは基本的にボールを保持していたため、場合によっては相手陣内のワンサイドでプレーすることもできたのだが、それでは前線の選手のスピードが活きない。
前線にスペースを作るためにGKのマヌエル・ノイアーを介したボール回しを敢えて展開することでイタリア代表の選手を前線に釣りだした。そこからノイアーのザネへの縦パスをきっかけにイルカイ・ギュンドアン→ティモ・ヴェルナー→ルーカス・クロスターマン→ザネ→ヴェルナー→ホフマンと「縦パス」を軸とした怒涛のダイレクトプレーで一気にイタリアゴールに迫った。
この理不尽な「疑似カウンター」に対し、イタリアの選手たちは全てが後手に回り、全くついていくことができていなかった。
GKのノイアーをはじめアントニオ・リュディガーとニクラス・ジューレの両CBも鋭い「縦パス」を前線に当てることが得意だ。彼らの「縦パス」というワンプレーから一気に前線の選手はスピードを上げ、相手守備陣が整う前に攻撃を完結させる。この縦へのスピードこそ今のドイツ代表最大のストロングポイントである。
このサッカーを就任1年足らずでチームに落とし込んでいるフリック監督の手腕は見事だ。かつて率いていたバイエルン・ミュンヘンに所属する選手が多いということもあるが、彼が求める「攻守におけるスピーディーなサッカー」はドイツ代表に完全に浸透している。