非現実的な日本代表の戦い方
長年DFリーダーを務めてきた吉田はキャプテンとしてチームにいなくてはならない存在だろう。しかし、ブラジル戦ではピッチ上で板倉のように思い切りの良いプレーができていない。前述したドイツ対イングランドの試合は日本代表と対戦したブラジルの上を行くインテンシティとスピードで、チームとしての成熟度を見ると、センターバックの一人として強豪国が展開するモダンサッカーにフィジカル的に耐えられるのか疑問です。このラインコントロールは、彼のフィジカル的観点からならば腑に落ちる。もし彼を活かし、強国と渡り合おうとするならチームとしての成熟度が高くなければ難しい。ブラジル戦の内容・結果をから、それを今年開催のW杯までにできるか、非現実的と言わざる得ない。
今回のように吉田を中心としたDFラインでゴール前をかためて、11人で自陣深く身体を張って守れば失点は少ないかもしれない。そしてワンチャンスにかける。しかし、そのワンチャンスすら与えられなかったこの試合……。これでは守りに守って予選突破した南アフリカW杯からの10年以上の歳月は一体何だったのか? 何を積み上げて、成長してきたのか。ちなみに、このやり方ならば、ゲーゲンプレス、ハイプレスを一切捨て、ボールロスト後に一目散に自陣に引き篭る方が良い。
中長期的にみれば、板倉、富安に加えて伊藤を中心としてDFラインを形成した方がいい。特に板倉のプレーは新たなDFリーダーに相応しい。文字では理解し辛いかもしれませんがアクティブな「ラインで守る」モダンなサッカーができるのではないでしょうか。私としては日本サッカーの未来を考えてこのチェンジに希望を持てる。
最後に、ネーションズリーグが始まって以来、日本代表の強化としてのマッチメイクはより難しくなった。南米のチームも同じだろう。一方で欧州のチームはネーションズリーグの盛り上がり、本気度を見ても間違いなくこれまでより強化されチームとしての成熟度も上がっている。
このようなどうにもできない状況を考えると日本代表が強くなるにはどうすれば良いかは難しい問題です。多くの日本代表選手が海外でプレーし、彼らは少なからず高いレベルを近くで感じているはずです。指導者目線から厳しい言い方ですが、個人的には今回のパフォーマンス、内容、結果は選手というよりも、どうしてもコーチングサイドの問題が大きいのではないかと思っています。決して感情的なものではなく、建設的に議論を深めていければいいと思います。
(文:河岸貴、構成:加藤健一)
ボールにオリエンテーションするプレー原則「BoS理論」については、季刊誌『フットボール批評』の「現代サッカーの教科書」にて連載中。6月6日発売の最新号では、ゲーゲンプレスやハイプレスが成立しなかったときにやるべき「移行」をJリーグの悪しき例から解説している。
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