必要がなかった久保建英
それはチームの戦い方にあるとみていいだろう。
5バックがメインだったアギーレ監督は、これまでとは違うオーソドックスな4-4-2を採用。相手が最下位アラベスということもあり、多少は攻撃にも変化があるかに思われた。
しかし、コンセプトは5バック採用時と大差なかった。ボールを持ったらリスクを冒さず前に蹴り込み、長身FWムリキに競らせ、こぼれたところにプラッツやダニ・ロドリゲスが反応し押し込む。この繰り返しであった。
残留に向け後がないアラベス側もまずは失点を回避するべく、ボールを持つと大きく蹴り出す場面が散見。よって、この試合はボールが地上になく、空中を飛び交うことがほとんどだった。そんな展開の中、当然ながら小柄な久保のタッチ数は限られてしまった。
久保も工夫はしている。内側にポジショニングしてムリキとの良い距離感を保ち、ボールに関与しようとした。しかし、それにより空いたスペースへマフェオが果敢に飛び出してくることで、右サイドの主役は同選手になっていた。つまり、久保は自然とマフェオが活きるための“おとり的存在”になっていたのである。もともとこの狙いであれば久保は役割を完遂したことになるが、もちろんそれは同選手本来の強みではないので、指揮官が用意したものとは考えにくい。
いずれにしても、この試合に関しては久保の必要性を全く感じなかった。上記した通りロングボール主体の中、ほとんどタッチできず、守備に奔走するだけ。他の選手でも十分できる内容だったと言わざるを得ない。
ルイス・ガルシア・プラサ前監督と比較しても、アギーレ監督はかなり現実的なサッカーを展開している。残留に向けて勝ち点を得るために、まずは失点をしないことが何よりも優先。それはここ数試合の内容をみても明らかで、今後も変わることはないだろう。
その中で、ここまで1得点1アシストと攻撃のスペシャリティーを発揮できていない久保の立場は、決して確固たるものではないと言える。守備の貢献度やカウンター時のことを考えれば、アマト・エンディアイエの方がサイドにはハマる。いまのところ、アトレティコ・マドリード戦やエルチェ戦のように、ジョーカーとして起用されるのが、久保にとってはベストになりつつある。
もちろん今後のパフォーマンス次第で状況はいくらでも変わるだろう。ただ一つ言えることは、アラベス戦における久保の説得力は皆無だったことだ。
(文:小澤祐作)
【了】