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岩渕真奈にとっての「自分らしさ」とは? ただのワガママではない1人のアスリートの逞しさ【サッカー本新刊レビュー:サッカーを外界へ編む(4)】

シリーズ:サッカー本新刊レビュー text by 石井龍 photo by Getty Images

サッカー本新刊レビュー

9回目となる小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を選定。この新刊レビュー・コーナーでは、2021年以降に発売された候補作にふさわしいサッカー本を随時紹介して行きます。




『明るく 自分らしく』

(KADOKAWA:刊)
著者:岩渕真奈
定価:1650円(本体1500円+税)
頁数:192頁

「自分らしく」

 誰もが一度は投げかけられた経験があるであろう言葉だと思います。反面、誰しもその姿勢を貫くことが難しいと感じているのではないでしょうか。

 自らを高めようとするときに用いられる言葉に「成長」があります。

 この言葉を他者に投げかけることもあれば、自分自身に言い聞かせることもある。目標を達成するための自己成長はすべてポジティブのように思われますが、岩渕選手が言う「自分らしく」という視点で捉え直すと、誰かの要請による「成長」は必ずしもポジティブなことだけではないことに気づきます。

 本著はプロサッカープレイヤー・岩渕真奈選手がその半生を振り返りながら自身を語る自叙伝的エッセイです。

 なでしこジャパンの一員として数多くの国際試合に出場し、現在所属するアーセナル・ウィメンズ加入に至るまでのサッカーキャリアの変遷はもちろん、ひとりのアスリートとして競技に向き合い続けた自らの人生観、ほとんど明かすことのなかったというプライベートの自分、異なる環境に身を置くことの大切さや責任についての考え方など。サッカーのみならず、余すことなく”岩渕真奈”が表現された一冊です。

 サッカーに限らず集団プレーが求められる組織では、自分自身を表現するよりも全体の利益につながりやすい役割を担うことが求められがちです。仕事だから、と折り合いをつけてやり過ごす処世術もあるなかで、プロフェッショナルという選ばれしステージにおいてもこの種の葛藤があることは、この問いに対して絶対的な回答がないことを意味しています。そのような環境で「自分らしく」在ることを素直に貫く岩渕選手の逞しさ、自分らしくありながらも集団とも調和を取る姿勢は、自己表現をただのワガママにしてしまうわけでもなく、個人と集団の関係性におけるひとつの目指すべき姿だと感じさせます。

 書籍のタイトルは「明るく 自分らしく」。

 岩渕選手を語る上で外せないキーワードでもある「自分らしく」。この言葉が彼女にとっていかに大切な言葉であり、彼女のアイデンティティの一部になっているかは一読すると理解できると同時に、「明るく」を付け足すユーモアこそが彼女のキャラクターなんだと思います。

「自分らしさ」についてヒントを求めている方にとって、何かのきっかけになるのが本著かもしれません。

(文:石井龍)


石井龍(いしい・りゅう)
プロデューサー&マネジメント。「ZISO」のボードメンバーとしても活動。2019年1月アニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」を設立。2021年11月12日にはloundraw監督映画「サマーゴースト」を公開した。

【了】

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