ベンフィカにとどめを刺した緩→急
「ベンフィカはプレゼントのような形で準々決勝に進んだわけではない。彼らは信じられない程タフな(バイエルン、バルセロナ、ディナモ・キエフとの)グループを通過し、アヤックスというヨーロッパの中で最もタレントが揃ったチームの1つと戦った」
しかし、このコメントは社交辞令の側面の方が強いのではないか。たしかにヌニェスにはゴールを決められ、後半には鋭いカウンターを繰り出してくるなど、ベンフィカは決して侮れる相手ではない。だが、普段からプレミアという世界屈指の猛者揃いのリーグ戦でタフな戦いを続けているリバプールにとっては、持てる全ての力を出し尽くさないと勝てない相手ではないだろう。端的に言えば、潜ってきた修羅場の数が違い過ぎるのだ。
であれば、雌雄を決するシティとの今季最大のビッグマッチを控えて、ベンフィカ相手に“低速ギア”を選択したとして、何ら不思議ではない。61分のクロップ監督の3枚同時交代には、目の前の試合を落ち着かせるのと同時に、過密日程をこなし続ける選手たちのコンディションを考慮したローテーションの意味合いもあったのではないか。
そしてディアスによる3点目は、このようにリバプールが“急ぎ足”ではなかったからこそ生まれたと言えるだろう。ベンフィカ側からすると、“低速ギア”に対応し続けたからか、87分という終盤になって急にギアをトップに入れてドリブルで進むケイタを止めることができず、スルーパスを出され、同様にトップギアのディアスに止めを刺されてしまう。緩→急の極みのような形で、3点目は生まれたのである。
こうして、決して“急ぎ足”ではなかったからこそ、リバプールは、CL準々決勝1stレグを優勢のまま終えることができた。そして2点のリードを考えれば、舞台をアンフィールドに移す2ndレグで逆転されるのは考えにくい。史上初の4冠を狙うチームは、来週13日の第2戦でも“低速ギア”を選択し、試合を優位に進めることができるだろう。
(文:本田千尋)
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