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「走る量を減らした」マンチェスター・シティ。不調から蘇らせたグアルディオラの決断とは?【一体化する4局面・後編】

text by 龍岡歩 photo by Getty Images

マンチェスター・シティ 最新ニュース

サッカーはボール保持、ボール非保持、攻撃→守備、守備→攻撃という4つの局面に分けることができる。サッカー4局面の解剖学と題しサッカーのトランジションについて考察する『フットボール批評issue35』(3月7日発売)では、今年2月に2冊の書籍を上梓した龍岡歩氏が4局面の過去を辿りつつ4局面の未来を占った。今回は『フットボール批評issue35』の「4局面クロニクル」より、完全一体期と称する現代サッカーについての考察部分を一部抜粋で公開する。今回は後編。(文:龍岡歩)



グアルディオラが下した決断とは?

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【写真:Getty Images】

同じことはペップのマンチェスター・シティにも起きた。シティはボール保持のパターンと失った時の[4-3-3]の弱点が研究され、アンカー脇のスペースを狙われたカウンターと、失点増に悩まされていた。そこでペップは2ボランチを置いた[4-4-2]でがっぷり四つに相手と組み合いながら、守備(ボール非保持)とカウンター(守→攻)で戦う戦略も取り入れるようになっていく。

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 しかしボランチを2枚にするということはペップの代名詞でもあった5レーンで相手4バックに優位性を作る、という根幹を揺るがす選択でもある。[4-4-2]同士のマッチアップで相手のDFを崩すには相手より多く走ってマークを外したり、守備が整う前にカウンターから得点を狙う攻撃を増やす必要がある。それはまるでこれまでリヴァプールが得意としていたような攻撃のパターンである。結果的に[4-4-2]を多く採用した19―20シーズンは首位に17ポイント差をつけられ、さらに翌20―21シーズンは開幕から深刻な不振に陥ってしまった。聡明なペップはここで大きな決断を下し、そこから破竹の連勝で復調するのだが、ペップ自身がその決断を以下のように語っている。

「我々が変わってきたのは走る量を減らしたことだ。これまでは多くの試合で走り過ぎていた。ボールがない場合は走らなければならないが、ボールを持ったらポジションにとどまり、ボールを走らせる。人じゃないんだ」

 つまり、ボール保持に特化した原点回帰を図ったのである。

 これがサッカーの難しさであり、面白さであろう。そこにはプレーする選手の特性や監督元来の好みとサッカー観が実に人間臭く反映されるのである。4局面すべてを極めるオールラウンダー型にすべての人間を急に作り変えるのは難しい。それがここ数年の流れである。

 これがサッカーの難しさであり、面白さであろう。そこにはプレーする選手の特性や監督元来の好みとサッカー観が実に人間臭く反映されるのである。4局面すべてを極めるオールラウンダー型にすべての人間を急に作り変えるのは難しい。それがここ数年の流れである。

 だが、人を変えるのは難しくとも、局面の位置付けならば変えられるかもしれない。筆者の見立てが正しければ、欧州のサッカーはそのような発想から4局面を一体化させる方向に進化のベクトルが向いているように思える。具体的には攻撃中に守備の準備をし、守備をしながら攻撃の仕込みをしておくことで局面をシームレス化するという考え方である。

 今やおなじみの「偽SB」もボール保持を強化しながら、失った瞬間(攻→守)に使われたくないハーフスペースをあらかじめ埋めておくという戦術で、まさに攻撃中に守備の準備を一体化させている。ユリアン・ナーゲルスマン率いるバイエルン・ミュンヘンを筆頭に今日では攻撃(保持)と守備(非保持)とでシステムを可変させることも珍しくなくなってきた。いずれも境界をあえてシームレスに捉えて対応しようという発想があるからだろう。

『フットボール批評issue35』

<書籍概要>

定価:1650円(本体1500円+税)

特集 サッカー4局面の解剖学

「攻守の切り替え」は死語である

 サッカーの局面は大まかにボール保持、ボール非保持、攻撃→守備、守備→攻撃の4つに分けられる、とされている。一方でビジネスの局面は商談、契約などには分けず、プロジェクトの一区切りを指す意味合いで使われることが多いという。しかし、考えてみれば、サッカーの試合は区切りにくいのに局面を分けようとしているのに対し、ビジネスの場面は区切れそうなのに局面を分けようとしていない。禅問答のようで非常にややこしい。

 が、局面そのものを一区切りとするビジネスの割り切り方は本質を突いている。プロジェクト成功という目的さえあれば、やるべきことは様々な局面で自然と明確になるからだ。ならば、ビジネス以上にクリアな目的(ゴール)があるサッカーは本来、ビジネス以上の割り切り方ができる、はず。結局のところ、4局面を解剖する行為は、サッカーの目的(ゴール)を再確認するだけの行為なのかもしれない。

詳細はこちらから

【了】

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