好むと好まざるとにかかわらず、現代サッカーにおいて「5レーン」は定番化しつつある。ただし、進化が止まることを知らない欧州のシーンでは、5レーン対策が跋扈し始めているのもまた確かである。先月、『激レアさんを連れてきた。』に出演した著者が、次の一手「現代5レーン征討」を解説した発売中の『フットボール批評issue34』より「現代5レーン征討」を一部抜粋ぃて前後編で公開する。今回は前編。(文:龍岡歩)
マンチェスター・シティを撃破したクリスタル・パレス
最も攻撃的な対5レーンへの姿勢として[4-3-3]がある。[4-3-3]の利点は前線から能動的にボールを奪いに行く時に最大限発揮される。守備は基本的に二段構成で考えるとわかりやすいだろう。まず相手が[3-2-5]でボールを保持している場合、[4-3-3]はビルドアップの始点となる3バック+2ボランチにマンツーマンで人を噛み合わせることが可能だ(図3)。
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次に相手がいわゆる「偽SBシステム」[2-3-5]のフォーメーションでボールを保持している場合を見てみよう。ビルドアップの起点として相手が最も活用したいその偽SBには、最初からIHがマッチアップできる立ち位置で配置されている(図4)。
つまりいずれにせよ、[4-3-3]は5レーンに対し、ビルドアップの初手段階でプレスをかけやすい構造になっていると言える。仮にもしここでボールを奪えれば3バックや2バック状態の相手に対して、数的優位のカウンターが打てる。今季のプレミアリーグ10節マンチェスター・シティ対クリスタル・パレスの試合はこの典型例だ(試合は2対0でクリスタル・パレスの勝利)。
クリスタル・パレスの[4-3-3]守備に対してシティは[2-3-5]でビルドアップを展開。だが2バックのCBがボールを運ぼうとした初手に対してクリスタル・パレスのIHが前に出てプレスをかけるとボールはクリスタル・パレスの手に渡ってしまった。2バック状態のシティに成す術はなく、そこからパス1本で簡単に崩されて失点してしまっている。
続いて[4-3-3]のチームが、相手ビルドアップから前線の5枚にボールを運ばれた場合の局面を考えてみよう。最終ラインは4対5の数的不利なので、どうしても大外のWGは空いてしまいやすい構造になっている。だがWGに縦パスが入るタイミングでIHが自分のレーンに戻って最終ラインをカバーすればもともとハーフスペースは抑えられるのだ。立ち位置の構造的妙がそこにはある(図5)。
『フットボール批評issue34』
<書籍概要>
定価:1650円(本体1500円+税)
教養としての現代サッカー
時期を合わせるかの如く欧州帰りの選手から「日本と欧州のサッカーは別競技」なる発言が飛び出すようになった。立て続けの印象が強いのは欧州から日本に帰還する選手が増えた証拠であろう。彼らが言いたいのは、欧州のサッカーは善、日本のサッカーは悪ではなく、欧州のサッカーは現代、日本のサッカーは非現代というニュアンスに近いのではないだろうか。もちろん、「組織」などのレンジの広い構造面も含めて……。
好むと好まざるとにかかわらず、現代サッカーの教養を身に付けない限り、「別競技」から「一緒の競技」に再統合することは断じてない。幸いにも同業界には現代サッカーを言語化できる日本人は少ないながらも存在する。攻撃的か守備的か、ボール保持かボール非保持かのようなしみったれた議論には終止符を打ち、現代か非現代か、一緒の競技か別競技かのような雅量に富む議論をしようではないか。
【了】