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冨安健洋には“荷が重い“…? しかし、アーセナルが日本のタレントを活かす「2つの策」は…【真の現代CB像・後編】

text by ジョナサン・ウィルソン photo by Getty Images

移籍直後にクラブの月間最優秀選手賞に輝いた日本代表DF冨安健洋の現状を分析しながら、真の現代CB像を浮かび上がらせる12月6日発売の『フットボール批評issue34』より「真の現代CBとは何か?」を発売に先駆けて一部抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:ジョナサン・ウィルソン、訳:山中忍)※今季の数字はプレミアリーグ第10節消化時点

最強の攻撃的SBと比較すると…

1128-冨安
【写真:Getty Images】

 自身のデビューを機にチームに得点も生まれた冨安だが、プレミアのSBとして「攻撃的」とは言い難い。機動力は申し分なく、チェンバースより縦にも横にも大きな体格でありながらも速い。

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 8節クリスタル・パレス戦(2対2)では、前半早々に見事なワンツーでWGのニコラ・ペペをボックス内に切り込ませ、最終的に1トップのピエール=エメリク・オーバメヤンが決めた先制点に絡んでもいる。だが、その前の移籍後4試合でのクロス本数は平均0・3本。左SBのキーラン・ティアニーは、平均1・3本という数字を残している。

 もっとも、即戦力としてのインパクトを損なわせるものではない。アーセナルにとっては、攻守のバランスと後方の安定感を改善することが先決だったはずなのだ。一時的だがクリスタル・パレスに逆転を許し、冨安加入後の初黒星を招くかに思われたカウンターでの2失点は、守備面の改善策となっていた日本代表DFに関し、新環境でいきなり先発が続く状況と、長距離移動を伴う代表ウィーク直後の疲労が指摘された移籍5戦目後半の出来事だった。

 試合後、監督のアルテタは、「疲れが溜まっている様子は見られない。どのデュエルにも、どんなボールの競り合いにも、然るべき姿勢で挑み続けてくれている」と語っている。単に冨安をかばう発言ではないだろう。クリスタル・パレスに1点目が生まれた場面では、戻って守備を行うことができなかったが、自らが、やや後方にいたボランチにボールを預けた次のプレーでショートカウンターに転じられたのでは仕方のない部分もある。

 デビュー後、個人的な出来が悪かった試合は、その2週間前の7節ブライトン戦(0対0)だ。前半は、マン・オブ・ザ・マッチに相応しかった敵の左WB、マルク・ククレジャを相手に苦戦した。それでも、後半には自軍右サイドでの劣勢を改め、ボックス内での1対1にも落ち着いて対処していた。攻撃陣が揃って精彩を欠き、敵のプレッシャーを受けた一戦は、最終ラインに冨安が加わる前のアーセナルであれば、敗戦に終わっていても不思議ではない内容だった。

 長期的には、指揮官の志向性からしても、アーセナルがプレミアの第2グループ上位から先頭集団に復帰する上で攻撃オプションを増やす必要があると思われる。その一環として、SBによる敵陣内での貢献度アップも求められる。プレミアで得点に絡んで貢献するSBと言えば、アレクサンダー=アーノルド。リバプールの右SB は、今季リーグ戦8試合出場で既に3アシストをこなし、放ったクロスも計71本を数える。これに対し、出場7試合でまだアシストがなく、クロスも計5本と少ないアーセナルの新右SBには荷が重いかもしれない。

 アルテタのアーセナルが、冨安というタレントを活かし続けるための現実的な策は2つ。1つは、オプションとして採用されることのある3バックを基本システムとし、右ストッパーを任せる方法だ。右SBで先発する現在も、左SBが攻め上がれば中央寄りにシフトする冨安は、実質的に右CB的なポジションでプレーしていることもある。

『フットボール批評issue34』

<書籍概要>
定価:1650円(本体1500円+税)
教養としての現代サッカー
時期を合わせるかの如く欧州帰りの選手から「日本と欧州のサッカーは別競技」なる発言が飛び出すようになった。立て続けの印象が強いのは欧州から日本に帰還する選手が増えた証拠であろう。彼らが言いたいのは、欧州のサッカーは善、日本のサッカーは悪ではなく、欧州のサッカーは現代、日本のサッカーは非現代というニュアンスに近いのではないだろうか。もちろん、「組織」などのレンジの広い構造面も含めて……。
好むと好まざるとにかかわらず、現代サッカーの教養を身に付けない限り、「別競技」から「一緒の競技」に再統合することは断じてない。幸いにも同業界には現代サッカーを言語化できる日本人は少ないながらも存在する。攻撃的か守備的か、ボール保持かボール非保持かのようなしみったれた議論には終止符を打ち、現代か非現代か、一緒の競技か別競技かのような雅量に富む議論をしようではないか。

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【了】

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