小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を決定。このコーナー『サッカー本新刊レビュー』では2021年に発売されたサッカー本を随時紹介し、必読の新刊評を掲載して行きます。
『フツーの体育教師の僕がJリーグクラブをつくってしまった話』
(徳間書店:刊)
著者:佐伯仁史
定価:1650円(本体1500円+税)
頁数:216頁
無我夢中で何かに没頭している人を見ると、自分自身のことでないのにも関わらず、なぜか胸がスッとする。
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誰かの挑戦に自分を重ねて勇気づけられることは、サッカーに関わらずチャレンジする人たちがもたらす“効能”かもしれない。
本書は超保守王国(と著者がいう)・富山を舞台に、サッカークラブ「カターレ富山」がJクラブの仲間入りをするまでの軌跡を描く――ものではなく、むしろJクラブ設立を実現した”フツー”の体育教師がどのような人物かを記した人間ドラマである。
体育教師がどうJクラブを設立したかの道のりは、当然、物語の主軸になるわけだが、普段の生活から学生時代のこと、地域とどう協力するか、スポンサーとの付き合い方、など。ビジネスでのプロジェクト実現に向けて役立つマインドセットやコミュニケーション方法など、私たちにとっても身近で実践的な知識も得られるはず。「落ちこぼれ学生が挑戦し這い上がり最後は目標達成する」。そんな青春ドラマの王道物語が紡がれていくわけですが、展開がわかっていつつも読後は熱い気分になり、勇気づけられ、きっと何か、受け取るものがあるはずです。
一読するとわかることですが、”フツー”の人物がゼロからJクラブを作るなんてことはいたって”フツー”ではない。それはある種の偉業であり、異常事態ですらある。だが、誰しも最初から偉業を為す力があったわけではなく、自分の情熱に気づいた”フツー”の人間が、少しずつ”フツー”のルートから逸れ、葛藤し、ときには挫折をしながらも前に進み、自分自身の道を見出す。そんな紆余曲折を余すことなく記したのが本著です。
ある意味では劇薬、参考にしようとも参考にならないこともある。簡単に触発されては痛い目を見るかもしれませんが、スポットライトの当たる場所で活動する人々が放つ輝きとはまた少し違う輝きを発しているのが著者・佐伯仁史氏。表舞台で輝く人を支える人のケーススタディとしてもとても興味のある仕上がりになっています。
(文:石井龍)
石井龍(いしい・りゅう)
プロデューサー&マネジメント。「ZISO」のボードメンバーとしても活動。2019年1月アニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」を設立。2021年11月12日にはloundraw監督映画「サマーゴースト」を公開した。
【了】