「ウルトラス」と呼ばれる熱狂的なサポーターが、世界各地のサッカークラブに存在している。如何に「ウルトラス」は変容し、世界中に広まっていったのか。世界各国の「ウルトラス」たちの正体を追った11月18日発売の『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』より、アルゼンチンの章を3回に分けて公開する。今回は中編。(文:ジェームス・モンタギュー、訳:田邊雅之)
ウルトラスが稼ぐ驚きの金額
ラ・ドセ(編注:ボカ・ジュニオールのサポーターグループの通称)は、実際にどれくらいの金を手にしているのか。
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2013年、『ラ・ナシオン』紙が実施した調査によれば、ボンボネーラの周りにある駐車場を管理するだけで、彼らは一試合あたり30万ペソ(当時の為替レートで6万ドル)を手にしていたという。だがフアンは、駐車場の管理やチケット転売、食事や商品の販売から得られる利益は全体のごく一部に過ぎないと断言した。
「残りの大部分は政治家や労働組合から流れてきていた。デモや警察に対する抗議活動を抑え込む『人夫』代としてね。それと麻薬の取引からもだ」
ラ・ドセは、少なくとも一月あたり300万ペソはかき集めていた。最古参のメンバーであるフアンは、こう証言する。だが請け負う仕事の内容によっては、額は簡単に跳ね上がる。
「普通の場合、一月で300万以上になった。ボカのバーラだけでもだ。金額は600万や1千万になることも時々あった。連中は好きなだけ請求できたし、相手も支払ってくるんだ」
確かにペソの為替レートはその後、急降下しているが、これは彼らが年間で100万ドル(約1億円)以上もの金額を稼ぎ出していたことを意味する。
21世紀を迎える頃には、ラ・ドセはさらに組織の規模を拡大していた。グループのリーダーであるラファエル・ディ・セオ、通称ラファは、会員が2千人存在すると主張。彼はアルゼンチンが誇る、最高のサッカー選手たちとも懇意にしていた。その中には英雄、ディエゴ・マラドーナも含まれる。事実、マラドーナはしばしばラファと一緒に写真に収まっている。
存在感を増したラ・ドセは、あらゆる種類の事業をおおっぴらに行うようにもなった。彼らは気前のいい外国人旅行者向けに、「アドレナリン・ツアー」なるものも運営し始めている。これはラ・ドセのメンバーと共に、ホームスタジアムのボンボネーラで試合を観戦するという企画で、一回あたり40人が参加していた。
ラ・ドセは、「ウルトラス大学」を世界各国のウルトラス向けに展開していくようになる。5千ユーロの授業料を支払えば、誰でもラ・ドセからサッカービジネスを学ぶことができるというのが謳い文句で、講義内容にはテラスで合唱されるチャントの作詞方法やバナーの作り方、チケットの転売方法までが含まれていた。
(文:ジェームス・モンタギュー、訳:田邊雅之)
『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』
<書籍概要>
定価:2750円(本体2500円+税)
劇的なドラマ、スター選手、華麗なテクニック、そして戦術。 ゴール裏のスタンドには、これらの一般的な目的とは全く異なる理由で、 サッカーの試合に熱狂する人々が膨大に存在する。 それが今日のサブカルチャーを作り上げた「ウルトラス」だ。 彼らは世界中のスタジアムを発煙筒の煙と怒号で満たしてきたが、我々はこの異質なファンのことを何も知らないに等しい──。
【了】