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Jリーグ 3年前

こっそり読書に最適!! 本田圭佑と松木安太郎の推薦帯コピーが欲しかった……【サッカー本新刊レビュー:老いの一読(3)】

シリーズ:サッカー本新刊レビュー text by 実川元子 photo by Getty Images

9回目となる小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を選定。この新刊レビューコーナーでは、2021年に発売された候補作にふさわしいサッカー本を随時紹介して行きます。



『いまさら誰にも聞けないサッカー隠語の基礎知識』



(カンゼン:刊)
編著:サッカーネット用語辞典
定価:1,760円(本体1,600円+税)
頁数:208頁

 読んでますか。

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 今回お誘いしたいのは、ちょいと不思議な一冊です。手にとってまず思ったのは、退屈な授業中に読むのに最適な本だな、ということ。そんなフトドキな感想を持つのは滅多にないことなのですが、体裁からしてさっと隠せる位のサイズ。中身も事典/用語辞典の一種なので、つまみ食い的なこっそり読書に向いています。

 ここから先は妄想ですが、クスリと笑える項目を見っけて、「ここ読みなよ、笑える」と近い席のサッカー部員に回した途端、先生が雷を。「こらっ、何やってる!」「ちょっと見せろ」となった直後にオチがつきます。「これ預かっておく。あとで先生も読みたいから」

 隠語と表題にありますが、実際はもっと幅の広い本です。是非とも推薦の帯コピーをもらって欲しかった本田圭佑、松木安太郎関連の立項などは、ほとんど迷言録。「レッドカード3枚ぐらい必要だこれ【れっどかーどさんまいぐらいひつようだこれ】」(松木)に妙に感じいってしまうタイプは、スポーツバーでいつかつかってやろうと考えるに違いありません(それって俺かも)。

 見出し語「リトル本田【りとるほんだ】」についての語釈も通好みのするものです。マン・ユナイテッド入団時のファン・ペルシーの影響を受けていた説にも納得がゆきます。本田に関しては「それはごもっともだけどオレの考えは違った【それはごもっともだけどおれのかんがえはちがった】」の項も面白く読めました。ネット民が「口田圭」「ゆとりジャパン」等で批判したのは2008年北京五輪当時のことですから、インターネット・スラング/ミームの歴史も結構長いなァと。本書中で最も古い見出し語はおそらく90年代出自のものでしょう。

 でも、隠語感を発散させているのはやはり「村井案件【むらいあんけん】」のようなネット・スラングです。閉鎖性と疎外性のあるものに強いインパクトがあることに気づかされます。仲間内意識を高める隠語は今後どう作用してゆくのでしょう。歌舞伎は観客から滅ぶという言い方がありますが、さて、サッカーの場合はどうなのか。

 編者の手を離れた途端に補訂を必要とするのが揺れを伴う辞典です。価値づけの難しい本でしたが、本棚の辞典/辞書コーナーにまた一冊ユニークな新顔が入りました。そのコーナーを占めるのは、辞書パロディ元祖のアンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』、奥山益朗『罵詈雑言辞典』、ブクテル+カリエール『万国奇人博覧会』、浦野起央『世界テロ事典』etc……。

(文:佐山一郎)

「本田△」「ゼイワン」…。絶対に残しておきたい隠語が、そこにはある【サッカー本新刊レビュー:蹴るように読む(2)】

佐山一郎(さやま・いちろう)
東京生まれ。作家/評論家/編集者。サッカー本大賞選考委員。アンディ・ウォーホルの『インタビュー』誌と独占契約を結んでいた『スタジオ・ボイス』編集長を経て84年、独立。主著書に『デザインと人-25interviews-』(マーブルトロン)、『VANから遠く離れて 評伝石津謙介』(岩波書店)、『夢想するサッカー狂の書斎』(小社刊)。スポーツ関連の電書に『闘技場の人』(NextPublishing)。

【了】

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