今季12得点。稲垣祥にゴールが生まれる理由
「長い目で見れば、自分も今年プロ8年目でいろんな経験をしてきた。いろんなシュートを打って外して、そういった中で少しずつ経験から学び、修正して、精度が上がってきたのかなと。チームとしてもカウンターというのがグランパスの1つの武器。そこで自分の走力が生きて、いるべきポジションにフリーでいられることが、自分のゴールが生まれる1つの要因かなと思います」
本人も分析するように、確かに稲垣の得点は3列目から飛び込んでこぼれ球に詰めるような形が多い。それだけボックス・トゥ・ボックスでピッチを駆け回っているということでもある。無尽蔵の運動量は終盤になっても落ちることはなく、今回もラスト15分という最も疲労が蓄積する時間帯に決めきった。まさに「中盤のダイナモ」と呼ぶに相応しいタフネスを見せつけた彼が大会MVPに輝くのは当然と言っていい。
そんな稲垣もつねに日の当たる道を歩いてきたわけではない。FC東京U-15むさし時代にはU-18昇格が叶わず、帝京高校時代は名門復活を託されながら果たせなかった。日本体育大学では1部昇格・2部降格の浮き沈みを味わい、プロ入り後も森保監督体制のサンフレッチェ広島では出番を得られない時期があった。
苦境に瀕しながらも、彼は腐ることなく青山敏弘のようなトップレベルのボランチから戦術眼やゲームメーク術を盗み、実践できるように取り組んできた。
こうした努力の積み重ねが2020年に赴いた名古屋で大きく開花した。戦術家・フィッカデンディ監督の出会いも大きな節目になった。それは間違いないと本人も認める。
「監督からは人としての振舞い、どういうメンタル状況でいるべきかなどを学び、人間として成長させてもらっています。もちろんボランチとしてもチームに安定感をもたらす存在でいることをつねづね求められている。そこは自分自身も成長したなと感じます」
コロナ禍で増えたオンライン取材でも、彼と中谷は「名古屋のオンライン大臣」と評されるほど丁寧かつ親身になって質問に答え、広報マンとして大活躍してきた。頭抜けた影響力に加え、ボランチとして円熟味を増した男が名古屋の11年ぶりの3大タイトル奪還の立役者になったことは、特筆すべき点だ。
29歳の遅咲きのMFはここからが全盛期。日本代表復帰含め、今後の一挙手一投足が本当に興味深い。
(取材・文:元川悦子)
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