9回目となる小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を選定。このコーナー『サッカー洋書案内』では、季刊誌『フットボール批評』の連載を転載する。(文:実川元子)
『How to Fix Modern Football』
著者:クリス・サットン
現代サッカーが抱える深刻な問題
クリス・サットンはブラックバーンやセルティックで活躍し、プレミアリーグで150得点を挙げ、イングランド代表にも選ばれたことがある選手である。2006年に試合中に視覚障害を起こす怪我をして33歳で引退した。現在は指導者となっている。『How to Fix Modern Football』(現代のサッカーをどう正すか)は題名の通り、自身の経験からサッカー界が早急に正すべきことを提示する。
【今シーズンの欧州サッカーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
「正すべき」とサットンが考える主要な点は、危ないタックルを絶対に禁止すること、ヘディングが大きな怪我だけでなく長じてからの若年性認知症につながることを指導者が理解して子どもにはやらせないこと、芝(天然、人工ともに)に使われている除草剤や薬品が人体に及ぼす影響のデータを取って調査し対応すること、若手選手に大金をチラつかせ青田買いし飼い殺すようなことは禁止すること、プロになれる選手は0.25%しかいないという現実を子どもにも親にもはっきり伝えて甘い夢を見させないこと、などである。
サットンが内部告発とも思えるような本書を書くにいたった動機は、サッカー選手だった父親や先輩、友人たちが若年性認知症と怪我の後遺症に苦しんでいるのを目の当たりにしているからだ。もちろん自身が負った視覚障害のこともある。
ヘディングが成長期の子どもたちに与える影響について、サッカー界はもっとしっかりデータを取って対策を立てるべきだ、とサットンは訴える。タックルで選手生命を絶たれる選手についても、対策を立てないと大勢の若者が生涯にわたって苦しむことになる、と厳しい口調で書く。
選手や監督、コーチはもちろん、子どもたちの指導にあたっている人や親たち、何よりもサッカー協会やFIFAにはサットンの悲痛な提案に耳を傾けてほしい、と願う。
(文:実川元子)
実川元子(じつかわ・もとこ)
翻訳家/ライター。上智大学仏語科卒。兵庫県出身。ガンバ大阪の自称熱烈サポーター。サッカー関連の訳書にD・ビーティ『英国のダービーマッチ』(白水社)、ジョナサン・ウィルソン『孤高の守護神』(同)、B・リトルトン『PK』(小社)など。近刊は小さなひとりの大きな夢シリーズ『ココ・シャネル』(ほるぷ出版)。