補強だけではタイトルに手が届かない
翻ってスールシャール監督のチームには、ワーグナー監督が構築したような戦術的土台が不足していた。ロナウドという強力な個で先制に成功したが、弱者を相手にした強者特有の弱点とでも言うべきか、連動したプレスやボールを奪った後のゴールへの道筋の共有という点で、ヤング・ボーイズの後塵に拝したと言わざるを得ない。
その意味で、このCLの初戦での敗北は、マンUにとって“ビッグ・レッスン”となったのではないか。戦術的土台を整備せずに強力な個に頼っていては、やがて行き詰ってしまうという教訓をベルンの地で得たのではないだろうか。
市場価値ではるかに劣るヤング・ボーイズに敗れたことで、“ロナウド効果”は消え去った。“ロナウド効果”とはつまり、ロナウドやヴァラン、ジェイドン・サンチョといった大型補強が敢行されたことで、今季はタイトルを取れるのではないか、という予感である。
ヤング・ボーイズ戦での敗北は、補強だけではタイトルに手が届かないことを証明した。もちろん今季は始まったばかりだ。ロナウドを始めとする今夏の補強そのものが否定されたわけではない。最高級の食材を手にしたスールシャール監督が、どのような料理をオールド・トラッフォードに戻ったファンに振舞っていくのか。問われるのは、チームを成熟させるための方向性である。
現在のマンUは、まだまだアンダードッグなのだ。
(文:本田千尋)
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