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さらに生まれた[3-2-5]殺し…。ペップ・シティを葬った新たなシステムとは…?【フォーメーション攻防解剖学・後編】

text by 龍岡歩 photo by Getty Images

秋のフォーメーション集中講座と題し、フォーメーション観をアップデートし、その攻防をよりロジカルに堪能することを試みた9月6日発売『フットボール批評issue33』から、昨シーズンのプレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、EURO2020におけるフォーメーションの攻防から、最先端の「構造利用メカニズム」を解剖した龍岡歩氏の「最先端フォーメーション攻防解剖学」を発売に先駆けて一部抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:龍岡歩)


イングランドのサッカー文化を変えた男

図3
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では、ボールの出どころが3対2でフリーになるなら、前線を3トップ([4-3-3])にして3対3にしてしまった場合はどうなるだろうか。この場合も[3-2-5]の対応は容易である。高い位置に張らせていた両WBを中盤まで落とし、自陣で5レーンを形成すれば5対3の数的優位が作れるからだ(図3)。

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3トップに3対3でプレスをかけられた3バックはサイドのWBを使えばよい。このWBに対して4バック側はSBを押し出すには距離が遠すぎる。スライドしているうちにWBには前を向いて有効なプレーを繰り出す時間が十分に与えられてしまうだろう。4バックはここでも後手を踏まされているわけだ。

つまり、[3-2-5]は4バックに対し、フィールドの至るところで「5レーン」の優位性を突きつけることができるのだ。これが私が[3-2-5]を指して、「4バック殺し」と呼ぶ所以である。

ペップ・シティの5レーン上陸により、プレミアリーグは変革を迫られた。4バックでは5レーンに対抗するのは難しい。それならば5レーンには5レーンで守れる5バックを、ということで守備時に5バックを形成できる3バックを採用するチームが増加するのは当然の流れだったのだろう。

それまでプレミアリーグといえば[4-4-2]と謳われ、その名も『FourFourTwo』というサッカー専門誌まで売られるほど、4バックが主流だったイングランドのサッカー文化をペップは変えてしまったのである。これは一つのトレンドがシステム全体に及ぼす影響の象徴的な例の一つといえるだろう。

破られた[3-2-5]。ペップ・シティを葬ったのは?

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【写真:Getty Images】

そして迎えた昨季のチャンピオンズリーグ決勝。この試合はペップが生んだトレンドの言わば頂上決戦ともいえる様相を呈した。「対ペップ」「対5レーン」の最右翼として決勝まで勝ち進んできたのはトーマス・トゥヘルを指揮官に迎えたチェルシーだった。

ペップ・シティが覇権を握っているプレミアリーグに乗り込んできたトゥヘルは守備時、[5-2-3]のブロックを形成し、5レーンの優位性を最小限に抑え込むことに成功している。[5-2-3]を[3-2-5]と対峙させると合わせ鏡のような配置になり、いわゆるミラーゲームの構図に持ち込みやすい。[5-2-3]が[4-4-2]と対峙した時にはあったはずのビルドアップの始点と終点で作られた「+1」の数的優位が消えてしまうからだ。

トゥヘルが構築したこの「[3-2-5]殺し」ともいえる新フォーメーションの効果はすぐに結果に表れた。チェルシーはトゥヘルを招聘後、このCL決勝を含めて3度、ペップ・シティと対戦しているが3戦3勝の結果を残している。

(文:龍岡歩)

秋のフォーメーション集中講座! 『フットボール批評issue33』は9月6日発売。フォーメーション観をアップデートし、その攻防をよりロジカルに堪能することを試みた最新号
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『フットボール批評issue33』

 

≪書籍概要≫
定価:1650円(本体1500円+税)

秋のフォーメーション集中講座

今さら「フォーメーション」だけに特化したサッカー雑誌が、しかも東洋の島国から出るとの報せを、もし、イングランドのマンチェスター界隈、それもペップ・グアルディオラ、フアンマ・リージョが奇跡的に傍受したとしたら―。「フォーメーションは電話番号に過ぎない」と切って捨てる両巨頭に、「まだ日本ではそんなことを……」と一笑に付されるのだろう。いや、舌打ちすらしてくれない可能性が高い。

しかし、同誌はそんなことではめげない。先月無事に開催された東京オリンピック2020におけるなでしこジャパン戦のような感情論一辺倒の応援に似た解説だけでは、フットボールの深淵には永遠に辿り着くことはないと信じて疑わないからだ。「フォーメーション」と「フォーメーション以外」を対立させたいわけでは毛頭なく、フォーメーション観をアップデートし、その攻防をよりロジカルに堪能したい、ただそれだけなのである。

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