前任者と共有する哲学
東京五輪開催にともなうリーグ戦中断期間中、マスカット監督は毎日の練習や試合などを映像でチェックし、スタッフらとリモートで対話を重ねながらチーム作りに関わってきた。そしてチームに合流してすぐのガンバ大阪戦に3-2で勝利すると、そこから3試合で2勝1分と新体制は好スタートを切っている。
これまで培ってきた「アタッキング・フットボール」の方向性を変えることなく、戦術面に大きく手を加えてはいない。それでも新監督の情熱はしっかりとチームに伝わり、結果につながってきた。今のところ、マスカット監督こそポステコグルー流の正統後継者であると感じさせる仕事ぶりだ。前田が言ったような「同じ匂い」がプンプンする。
それは監督自身の言葉からも存分に感じられる。細かい言い回しなどは違えど、伝わってくるメッセージや言葉のニュアンスがポステコグルー監督とまるっきり同じなことが頻繁にあるのだ。就任会見でもそうだった。
「アンジェから学んだのは『何を信じていくのか』ということ。自分たちがやっているサッカーをどう信じ、いかにを信じ続けるかを学んだ。それだけではなくチーム一丸となって、全員で信じる気持ちを持って、どのようなスタイルで戦っていくかを決めた上で、それをブレずに続けていくこと。その芯の強さも学んだ」
ポステコグルー監督は「自分たちのサッカーをブレずに信じ続けることが重要だ」と呪文のように唱え続けていたが、強い信頼関係で結ばれたマスカット監督はその教えを忠実に受け継いでいる。もちろん戦術面においても「アタッキング・フットボール」の「芯」の部分は共有しているに違いない。
マルコス・ジュニオールは前監督退任直後に「マリノスは偉大なクラブ。監督も選手も去る時がくるけれど、このクラブはずっと残る。もう新たなページになったと思うので、いつまでも悔やんでいても意味がない。次に向けて新たなページを作り上げていきたい」と話していた。
首位の川崎フロンターレを追い続け、逆転でのJリーグ優勝を「絶対に諦めない」とマスカット監督は断言した。ならば、めくられた「新たなページ」に刻まれていくであろう勇猛果敢で情熱あふれるアタッキング・フットボールの未来を信じてみたい。
(取材・文:舩木渉)
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